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魔女二人 三
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「なにかな? 教えてくれ」
「ふふふふ。いいわ。教えてあげる。〝お馬遊び〟というのよ」
アベルの顔から血の気が引いたのが知れる。
「ほう。お馬遊びとは、どんな遊びかな?」
またわざとらしく公爵が訊く。
「あら、知らないの? 帝国にはそんな遊びはないのかしら?」
「ふむ。あるかもしれないが、私は聞いたことがないな」
ねちねと、この二人の悪漢は、アベルを苛めぬこうとしているのだ。
「いいわ。それなら、私が教えてあげる。ほら、用意しなさい」
アイーシャという女は、扉近くに控えていた宦官兵に声をはなった。宦官兵は頷くや、扉向こうに消える。
この女は異国の地に奴隷として囚われてあっても、傲然として女王のようにふるまい、それをまわりに納得させているのだから、ある意味たいした女である。
ゴトゴトと何か床を引きずるような音がして、やがてあらわれたのは、白亜の木馬である。
「おお、これは凄いな」
等身大の木馬は、かなり精巧に作られており、遠目には本物の馬に見えたかもしれない。全身が白木づくりだが、目の所だけは黒曜石を嵌めこんでいるらしく、室の灯を受けてきらきらと輝いている。
バルバラは好奇心から近づいてみた。かすかに木の匂いがする。
木馬の脚の下は三ケ月のような橇が設えてある。
背の所には燃えるような真紅の天鵞絨の布が敷かれてあり、どこか厳かにさえ見えるのは、その緻密な作りのせいだろう。鬣から蹄まで、まるで生きているもののようだ。
「しかし、これは例の淫書に出て来る木馬とはちがうな」
公爵の言うとおり、書に出てくる木馬とはちがう。一番ちがうのは、グラリオンの後宮の木馬は、背におぞましい道具を生やしていたが、これはない。
「ほほほほ。今回は、すこし趣向を変えているのよ。ご覧なさいよ」
扉の側には、いつの間にか女奴隷がちいさな籠をかかえて立っていた。
「サライア、来なさい」
「ふふふふ。いいわ。教えてあげる。〝お馬遊び〟というのよ」
アベルの顔から血の気が引いたのが知れる。
「ほう。お馬遊びとは、どんな遊びかな?」
またわざとらしく公爵が訊く。
「あら、知らないの? 帝国にはそんな遊びはないのかしら?」
「ふむ。あるかもしれないが、私は聞いたことがないな」
ねちねと、この二人の悪漢は、アベルを苛めぬこうとしているのだ。
「いいわ。それなら、私が教えてあげる。ほら、用意しなさい」
アイーシャという女は、扉近くに控えていた宦官兵に声をはなった。宦官兵は頷くや、扉向こうに消える。
この女は異国の地に奴隷として囚われてあっても、傲然として女王のようにふるまい、それをまわりに納得させているのだから、ある意味たいした女である。
ゴトゴトと何か床を引きずるような音がして、やがてあらわれたのは、白亜の木馬である。
「おお、これは凄いな」
等身大の木馬は、かなり精巧に作られており、遠目には本物の馬に見えたかもしれない。全身が白木づくりだが、目の所だけは黒曜石を嵌めこんでいるらしく、室の灯を受けてきらきらと輝いている。
バルバラは好奇心から近づいてみた。かすかに木の匂いがする。
木馬の脚の下は三ケ月のような橇が設えてある。
背の所には燃えるような真紅の天鵞絨の布が敷かれてあり、どこか厳かにさえ見えるのは、その緻密な作りのせいだろう。鬣から蹄まで、まるで生きているもののようだ。
「しかし、これは例の淫書に出て来る木馬とはちがうな」
公爵の言うとおり、書に出てくる木馬とはちがう。一番ちがうのは、グラリオンの後宮の木馬は、背におぞましい道具を生やしていたが、これはない。
「ほほほほ。今回は、すこし趣向を変えているのよ。ご覧なさいよ」
扉の側には、いつの間にか女奴隷がちいさな籠をかかえて立っていた。
「サライア、来なさい」
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