黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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魔女二人 二

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「こちらは、アイーシャ。グラリオン宮殿で前王、いや、今や廃王となったディオ王の側室だった」
「ただの側室ではないわ。筆頭寵姫よ」
 つん、と鼻をそらすようにして、彼女はかるく公爵を黒い瞳で睨んだ。その瞳も蠱惑的で、異国の神秘と危険さをちらつかせている。
 バルバラは気づいた。あの猥褻な書物に描かれた絵の美女に、この女がひどく似ていることに。
 ほとんど直観的にさとった。この女こそアベルに手酷い性の拷問をあたえたグラリオン後宮の妖婦だ。
 たしかな証拠は、彼女があらわれた途端、アベルの顔がこわばり、碧眼にはげしい怒りがみなぎったことだ。
 その激しい憎悪の視線を、アイーシャと呼ばれた女は平気で受け止め、艶然と笑ってみせた。
「あら、お久しぶりね、伯爵。お元気そうで。相変わらずお美しい。憎らしいぐらいね」
 紅帯をまいた胸をそらし、右手を腰に当て、身体ををひねってみせる。その仕草は色気に満ちており、なるほど、これが異国の後宮の華かと思わせる魅力はたしかにある。
「まぁ、お似合いね、その衣。丸見えだわ。ほほほほほ」
 かなりあけすけな気性だ、と人の事は言えないが、バルバラはつい思ってしまった。
「どう? 祖国での歓迎ぶりは? グラリオンほど楽しいものではないでしょう?」
 アベルは怒りのあまり蒼白になっている。
「いやいや、伯爵はけっこう楽しんでくれたぞ」
 公爵が口をはさむと、アイーシャは腕を組んで生意気そうに反論する。
「私もこちらでけっこう楽しませてもらったけれど、あんなもの、グラリオンの後宮では児戯のようなものよ。なにより、あれがないじゃないの」
「あれ……、とは?」
 笑って問う公爵に、アイーシャは流し目をおくる。
「あれ、よ。私のお気に入りのお遊び。伯爵も、グラリオンでひどく喜ばれて、大好きになってくださったのよ」
「ほう? 伯爵がそれほど気に入ったのなら、祖国でもぜひそれで楽しませてやりたいものだ。教えてくれないか?」
「あら、知らないの? 知っているはずだわ」
 芝居じみたやりとりだ。バルバラは内心、苦笑する。
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