黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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月夜に見る夢 九

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 エンリケは、おのれの手と口腔によって乱れるアベルに興奮してきた。痛快でもある。
 ふだんは潔癖で怜悧なアベルでも、身体の中心をいいようにされると、かくも他愛もなく崩れるのだ。それが肉体の摂理であり、自然の理だとわかっていても、おもしろく、昂ぶる。自分も備えている身体の機能がひどく興味ぶかくなってくる。
「はぁっ、ああっ、ああっ、い、いや、いやだ!」
 たっぷりと時間をかけてアベルを追い詰める。かつてアナが自分にそうしたように。
 あの夜、身体が燃えていく過程で、ゆきずりの街娼に一抹の情と、翻弄される苛立ちをおぼえたものだが、最後には激しい快楽にながされ、かすかにだが、アナにたいして憎からず思うような想いが芽生えたのは、我ながら不思議だ。エンリケは内心首をひねった。
 もちろん貴族のたしなみとして、そんなことは全く顔に出さず、いともあっさりとアナを元のところに捨ててきたが。
(あいつは今頃どうしているのだろう?)
 アベルの声を聞きながら、どういうわけかエンリケは一度会っただけの男娼のことを思い出してしまう。あれから一年以上はたっているというのに。
 エンリケを頬張りながら、やや苦しげに、せつなげに黒い眉を寄せていたアナ。
「ああっ、も、もぉ、やめてくれ、エンリケ!」
 アベルの唇が、自分の名を吐いた。エンリケの胸が熱く燃える。
「はぁっ、ああああああ!」
 舌責めの果てに、アベルは感極まった声をはなった。

 エンリケも息をついた。迷うことなくアベルの放ったものを飲みほす。
 身を起こすと、台の上では、ほぼ全裸のあられもない姿で、アベル=アルベニス伯爵が消えない余韻にひたって身体をふるわせている。
「はぁ……」
 薄闇に、純白の花びらが散りあふれているような、美しくも無残な光景に、エンリケはかすかな驚きと満足をおぼえる。
 夏夜に、小雨にしっとり濡れた白薔薇のような妖しいほどの艶姿に目も心もうばわれていく。
(これを見て、心うばわれぬ男が、いや、女であっても、いるというならお目にかかりたいな)
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