黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
129 / 184

月夜に見る夢 八

しおりを挟む
「あぁ……」
 アベルの切ない吐息まじりの声に、エンリケの脳裏に、あのときの男娼の姿が浮かぶ。
 夜の街で出会った行きずりの街娼だった。
 エンリケはそういう相手とも遊ぶことがあったのだ。
 夜霧のなか、客を待ってたたずむ街娼に、ふと気を引かれて馬車のなかに招いたのだ。女の装いをしていたが、男だということはすぐわかった。異装行為は、見つかれば投獄されるが、それでもそういう人種は規律きびしい帝国にあってさえ絶えることはない。
(名は……なんといったかな)
 アナ……。思い出した。たしか、そう名乗っていたが、女性名なので、勿論偽名だろう。
 出会ったばかりのエンリケの前に跪き、股間に顔をうずめた一夜だけの情人の顔が目にうかぶ。
 舌技は素晴らしかった。エンリケは恥ずかしいほどあっけなく弾けたのだ。
 しばらく馬車を走らせて、もう一度楽しみ、それからアナを拾ったあたりへもどって、金貨を一枚あたえて下ろした。エンリケはこういうときお大尽ぶって必要以上に奮発したりしない。そんなことをすれば、つけこまれて身元をさぐられかねないからだ。
 アナとはその後会うことは、勿論なかった。深くヴェールをかぶっていたので、顔もよく見なかったが、目元はなかなか整っており、美しい顔立ちだったと思う。今は印象だけがぼんやり思い出せる程度だ。それだけの相手だった。だが、アナのあの卓越した舌技だけは忘れられない。
 自分をくわえこみながら、時折かすかに見せた辛そうな表情も。
 今、自分は、あの霧の夜に得たのとおなじだけの快楽をアベルにあたえられているだろうか。つい、自問してしまう。
「ううっ、うううっ、……くっ……!」
 アベルの声は、痛みに苦しみ、必死に耐えようとしている哀れな患者のようだった。
 だが、それでも、つづけていると、やがて呻き声にはつやっぽいものが混じりだす。
 アナがしたように、軽く、歯をかすかに当てたりしてみる。
「いやっ、」
 先端を舌でつつく。
 時折りは指を添えたりもする。
「はぁ……! ああっ、あああっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

屈した少年は仲間の隣で絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...