黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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月夜に見る夢 四

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「やめろ! 愚かな真似をするな!」
 しばし二人は揉みあった。
 やがてエンリケはアベルを押し倒すかたちで、息を切らしながら台上にあがった。心身ともに度重なる苦労と苦痛で、アベルはかなり疲弊しているのだ。
 こうして触れてみると、たしかに以前とくらべればアベルは痩せた気がする。だが、エンリケは征服の手を弱めなかった。
「うう……!」
「なんて白い肌だ。しっとりして、柔らかい」
 女よりも柔媚な腕、胸、肩を撫でまわす。
 こんなにも柔らかだというのに、肌の下には、たしかに強靭な骨があることが知れ、あまりのすばらしさに、我知らずエンリケはアベルを抱きしめていた。
「は、はなせ!」
 難攻不落の城塞を落とす覚悟で、エンリケはアベルに挑んだ。
 いつもはどこか虚無的で、投げやりなエンリケにしては、こんなふうに何かを手に入れるために情熱をかけたのは、久しぶりだ。
「下がれ! 無礼者!」
 もがき叫ぶアベルの様子は、凄艶のひとことである。
 エンリケも歳のわりにはかなり遊んだが、今まで相手にしてきた娼婦や侍女、小姓、色子、未亡人や遊び好きの令嬢などとは、まるで違う。
 脂粉や香水の匂いをまきちらし秋波をおくってくる連中とは、そもそも人間の格がちがうのだ。鉛と黄金をくらべるようなものだ。
 アベルのなにがこうも他の人間と違うのか。エンリケは内心首をひねらずにいられない。
 それは、さんざん辱しめられ、いたぶられ傷つけられても、尚ゆらぐことのないアベルの自尊心と、純情さのせいかもしれない。
 たいていの人間は、汚されれば誇りを失い、絶望して自棄になったりするものだが、アベルには、凌辱を受けたことを思わせる暗さがない。すれることもなく、すさむこともなく、かといって開き直っているふうでもなく、かつての純真なアベルは揺らぐことなくここにおり、幾度となく汚された身体を、この期におよんでも守りぬこうと、痛ましい戦いをしているのだ。
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