黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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月夜に見る夢 一

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 とはいうものの、出自のことで意地悪い貴族社会で散々辛苦を舐めてきたエンリケである。これぐらいの苛立ちはたやすくかくせる。
「お二人が、あまりに仲睦まじそうなので、つい声をかけそびれまして」
 台上のアベルは脱がされていた衣を必死にかきあつめている。
 その様子は散った花びらをかきあつめる妖精のようで、いじらしくさえあるが、エンリケの口からは皮肉な言葉があふれる。
「お二人がここまで親密な仲だったとは。貴婦人たちが知ったらさぞ嘆くでしょうな」
 大袈裟に首を横に振ってみせた。
「それにしても、アルベニス伯爵がこれほどまでにお美しいとは。全身から匂いたつような色気に酔ってしまいそうですよ。ああ……やはりあの噂は本当だったのですね。グラリオンで王に可愛がられたとは聞いていましたが」
 自分でも毒々しい口調と声だ。聞かされた方はいたたまれないだろう。
 両腕でおのれの身体を抱きしめるようにして、アベルが顔を伏せた瞬間、エンリケは甘美な復讐を味わえた。
 だが、アベルのエメラルド色の瞳が夜目にも輝きを失ったことがわかったのは、ほんの一瞬だけだった。
 次の瞬間には、はじけるような力強さをこめて、エンリケを睨みつけてくる。
 復讐の甘美さとはべつの、奇妙な悦びがエンリケの身体に走る。
(なんということだ。こんな不様を晒しても、この男は光り輝いている)
 泥遊びをしていて、思わず美しい石を見つけた子どものような興奮と歓喜をエンリケは感じていた。
 それをもっと深く楽しみたく、口が勝手に開く。
「異教徒の後宮で磨きぬかれた技を、私も是非味わってみたいものだな」
「味わってみるかな?」
 公爵の言葉に驚いたのはアベルだけではない。思わず、エンリケは目を見張っていた。
 戯言ざれごとか、揶揄か。だが、わずかでも機会があるなら逃す手はない。
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