黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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宮廷の獣たち 八

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 そしてあらためて、帝国にその人ありと知られた名高い一流の戦士を、ここまで変えたグラリオンの後宮という魔窟に、興味と感嘆をおぼえた。
 エンリケのみならず、神をあがめる国の白人たちは皆、異教徒の後宮というものは、好色で淫らな女たちが王者の寵を得るため色気をふりまき、陰謀にあけくれ、酒池肉林の日々をおくっている悪所と思いこんでいる。
 帝国では後宮とは売春宿と同意味であり、言葉どおり神をおそれぬ異教の悪しき因習にとらわれた伏魔殿であり、唾棄すべき存在とみなしているが、それでいて例の書物が世に出回る以前から、異教徒の後宮の絵や物語は、実をいうと巷間でひそかに出回っていた。
 おもてむきは口に出しては言わないが、異国のなかのさらに異界のような場所に、知らぬがゆえにこそいっそうかきたてられる好奇心や好色さを満足させるため、虚実まじえた絵や文書は闇で売られていたのだ。
 エンリケもけっして無関心ではなかった。
 そして禁書を手にいれて読みふけっては、妄想したり夢想したりもした。
 後宮という場所は、いったんそこへ足を踏み入れたが最後、男が男でなくなる所なのだ。女も女でなくなるのだ。書物に描かれていた、男を嬲る側室の絵姿が思い出される。
 本当に、いったいどんな所なのか、と思いめぐらしてしまう。
 邪悪な愛妾たち、異形の身体の宦官たちに、調教の専門家だという蕾と呼ばれる少年宦官たち。哀れなとらわれの虜囚は嬲りに嬲られ、乱れぬいて……。
 贅美を尽くした皇帝の巨大な〝寝室〟でくりひろげられる淫らな物語を想像して、エンリケは股間を熱くすることも度々あった。
 そして、すぐそこで強烈な色気にあふれた姿をさらしている男は、その夢の宮殿をおとずれ、邪宗の洗礼をうけ、淫風に染まり、別人のようになり果てて戻ってきたのだ。
 すさまじいことに、行く前より美しく、魅惑的になって帰ってきたのだ。
 かつての清廉で純真無垢なアベルしか知らなかったエンリケには、今、屈辱に啜り泣き痴態をさらしている、この官能的な生き物が、アベルのもうひとつの姿なのだとはとうてい信じられなかった。
 もしかしたら、本当のアベルはグラリオンの後宮で死んだか、今も囚われており、グラリオン政府は、アベルと瓜二つの人物を返してきたのではないかと、それこそ物語めいた想像をしてしまう。
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