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宮廷の獣たち 四
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二人は微笑を交わした。
ときに、王侯貴族のなかには、巷の淫売以上に堕落した者もいるのだ。
「いいわ。あなたは私の友人ということで、同伴させてあげる」
「ありがたい。楽しい夜を過ごせそうですね」
「そうね」
魔女と悪魔はともに微笑んだ。
廊下を歩いていると、エンリケは衣裳部屋の扉がかすかに開いているのに、目ざとく気づいた。
このあたりはおもに道具や什器、王族の衣装などがしまわれている室がおおく、さらに進むと使用人部屋で、エンリケは馴染みの侍女の室へしのんでいくところだった。
もしや、と思って、そっと音をたてないように配慮して室内をのぞきこむ。
「ああっ、はなせっ……」
「しっ……、人が来るかもしれないぞ」
内心ひやりとしつつも、その声に聞き覚えがあり、エンリケは聞き耳たてる。
「よく耐えたな。つらかったろう? 宮廷人たちはすっかりおまえの美しい姿に魅入られていたぞ」
「あっ、さわるな!」
一歩、室内へと足を進めたエンリケは、ぞくぞくしながら、それでも細心の注意を払って、暗い部屋のなかを、聞こえてくる声をたよりに忍び歩いた。
「可哀想に、随分がまんしていたのだろう。さ、出させてやるぞ」
「やっ、いやっ……!」
悲鳴のような声はまぎれもなくアベルのものである。そして、もう一人はバルトラ公爵だ。エンリケは唾を飲みんこんだ。
こんなところで二人が何をしているのか、見極めないわけにはいかない。
幸い、宴や宮廷儀式のときに使う衣装や道具などがやや乱雑に置かれているせいで、広い室内も混みいっており、エンリケの姿は相手からは見えない。エンリケは豪奢な寝椅子の後ろに身をかがめた。
荒々しい息の音、衣擦れの音、身体がぶつかりあう音がしばし響き、やがてアベルのかすかな悲鳴が聞こえてきた。
玻璃窓から差し込むおあつらえの月明かりが、ほんのり二つの影を照らしてくれる。
ときに、王侯貴族のなかには、巷の淫売以上に堕落した者もいるのだ。
「いいわ。あなたは私の友人ということで、同伴させてあげる」
「ありがたい。楽しい夜を過ごせそうですね」
「そうね」
魔女と悪魔はともに微笑んだ。
廊下を歩いていると、エンリケは衣裳部屋の扉がかすかに開いているのに、目ざとく気づいた。
このあたりはおもに道具や什器、王族の衣装などがしまわれている室がおおく、さらに進むと使用人部屋で、エンリケは馴染みの侍女の室へしのんでいくところだった。
もしや、と思って、そっと音をたてないように配慮して室内をのぞきこむ。
「ああっ、はなせっ……」
「しっ……、人が来るかもしれないぞ」
内心ひやりとしつつも、その声に聞き覚えがあり、エンリケは聞き耳たてる。
「よく耐えたな。つらかったろう? 宮廷人たちはすっかりおまえの美しい姿に魅入られていたぞ」
「あっ、さわるな!」
一歩、室内へと足を進めたエンリケは、ぞくぞくしながら、それでも細心の注意を払って、暗い部屋のなかを、聞こえてくる声をたよりに忍び歩いた。
「可哀想に、随分がまんしていたのだろう。さ、出させてやるぞ」
「やっ、いやっ……!」
悲鳴のような声はまぎれもなくアベルのものである。そして、もう一人はバルトラ公爵だ。エンリケは唾を飲みんこんだ。
こんなところで二人が何をしているのか、見極めないわけにはいかない。
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荒々しい息の音、衣擦れの音、身体がぶつかりあう音がしばし響き、やがてアベルのかすかな悲鳴が聞こえてきた。
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