黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
115 / 184

宮廷の獣たち 三

しおりを挟む
 エンリケは、かつて御前試合でアベルに打ち負かされた苦い経験がある。アビラ子爵がアベルを恨むのも、己の嫡子を晴れの舞台でみごとに負かされ、家名に泥を塗られたという屈辱の記憶があるからだ。
 愛のない父子であっても、アベルへの憎しみは彼らにとって共通の想いであった。
 その憎いアベルが、異郷徒の地でさんざんに辱しめられたという噂を聞くのは、エンリケにとっては極上の蜜を舐めるようなものだった。エンリケはアビラ子爵から、その噂がすべて真実であることを知らされていた。
 さらに最近つかんだ耳よりな話は、エンリケがぜったいに聞きのがせないものだった。
「それはそうと、侯爵未亡人、あの噂は本当なのですか?」
「噂って……?」
 孔雀の羽の扇で口元をかくし、未亡人は無邪気な子どものように目をきょとんさせる。演技であることがすぐわかる仕草である。
「じらさないでください。例の、公爵が別荘で催す宴のことです。秘密の宴の」
「ああ、あれね?」
 くすくすくす。楽しそうに未亡人は笑う。
「未亡人、あなた、招待状を手にいれているのではないですか?」
 エンリケはさぐるような目をした。
「さぁ、どうかしらね?」
「今更嘘はなしですよ。日はいつなのですか?」
「ふふふふ。あなたも興味があるのね?」
「当たり前ですよ。興味のない男など、いや、女でも、そんな話を聞いて、まったく興味のない人間なんていないでしょうよ」
 公爵未亡人は肩をくすめた。
「言っておくけれど、招待状は、誰もが手に入るものではないのよ。同好の士というのか、高雅な趣味をもつ、私のように選ばれた者だけが手にすることができるのよ」
「はいはい。好色で淫乱で道徳心などかけらもない、我が帝国には珍しい享楽主義の貴族だけがね」
「あら、随分ね」 
 怒ったふりをしながらも公爵未亡人の黒い瞳はいきいきと輝いている。
 こちらもバルバラ同様、羞恥も慎みもとっくの昔になくしている女である。
「あなたもそうでしょう、エンリケ?」
「ええ、まったくそのとおりで」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

屈した少年は仲間の隣で絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...