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宮廷の獣たち 三
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エンリケは、かつて御前試合でアベルに打ち負かされた苦い経験がある。アビラ子爵がアベルを恨むのも、己の嫡子を晴れの舞台でみごとに負かされ、家名に泥を塗られたという屈辱の記憶があるからだ。
愛のない父子であっても、アベルへの憎しみは彼らにとって共通の想いであった。
その憎いアベルが、異郷徒の地でさんざんに辱しめられたという噂を聞くのは、エンリケにとっては極上の蜜を舐めるようなものだった。エンリケはアビラ子爵から、その噂がすべて真実であることを知らされていた。
さらに最近つかんだ耳よりな話は、エンリケがぜったいに聞きのがせないものだった。
「それはそうと、侯爵未亡人、あの噂は本当なのですか?」
「噂って……?」
孔雀の羽の扇で口元をかくし、未亡人は無邪気な子どものように目をきょとんさせる。演技であることがすぐわかる仕草である。
「じらさないでください。例の、公爵が別荘で催す宴のことです。秘密の宴の」
「ああ、あれね?」
くすくすくす。楽しそうに未亡人は笑う。
「未亡人、あなた、招待状を手にいれているのではないですか?」
エンリケはさぐるような目をした。
「さぁ、どうかしらね?」
「今更嘘はなしですよ。日はいつなのですか?」
「ふふふふ。あなたも興味があるのね?」
「当たり前ですよ。興味のない男など、いや、女でも、そんな話を聞いて、まったく興味のない人間なんていないでしょうよ」
公爵未亡人は肩をくすめた。
「言っておくけれど、招待状は、誰もが手に入るものではないのよ。同好の士というのか、高雅な趣味をもつ、私のように選ばれた者だけが手にすることができるのよ」
「はいはい。好色で淫乱で道徳心などかけらもない、我が帝国には珍しい享楽主義の貴族だけがね」
「あら、随分ね」
怒ったふりをしながらも公爵未亡人の黒い瞳はいきいきと輝いている。
こちらもバルバラ同様、羞恥も慎みもとっくの昔になくしている女である。
「あなたもそうでしょう、エンリケ?」
「ええ、まったくそのとおりで」
愛のない父子であっても、アベルへの憎しみは彼らにとって共通の想いであった。
その憎いアベルが、異郷徒の地でさんざんに辱しめられたという噂を聞くのは、エンリケにとっては極上の蜜を舐めるようなものだった。エンリケはアビラ子爵から、その噂がすべて真実であることを知らされていた。
さらに最近つかんだ耳よりな話は、エンリケがぜったいに聞きのがせないものだった。
「それはそうと、侯爵未亡人、あの噂は本当なのですか?」
「噂って……?」
孔雀の羽の扇で口元をかくし、未亡人は無邪気な子どものように目をきょとんさせる。演技であることがすぐわかる仕草である。
「じらさないでください。例の、公爵が別荘で催す宴のことです。秘密の宴の」
「ああ、あれね?」
くすくすくす。楽しそうに未亡人は笑う。
「未亡人、あなた、招待状を手にいれているのではないですか?」
エンリケはさぐるような目をした。
「さぁ、どうかしらね?」
「今更嘘はなしですよ。日はいつなのですか?」
「ふふふふ。あなたも興味があるのね?」
「当たり前ですよ。興味のない男など、いや、女でも、そんな話を聞いて、まったく興味のない人間なんていないでしょうよ」
公爵未亡人は肩をくすめた。
「言っておくけれど、招待状は、誰もが手に入るものではないのよ。同好の士というのか、高雅な趣味をもつ、私のように選ばれた者だけが手にすることができるのよ」
「はいはい。好色で淫乱で道徳心などかけらもない、我が帝国には珍しい享楽主義の貴族だけがね」
「あら、随分ね」
怒ったふりをしながらも公爵未亡人の黒い瞳はいきいきと輝いている。
こちらもバルバラ同様、羞恥も慎みもとっくの昔になくしている女である。
「あなたもそうでしょう、エンリケ?」
「ええ、まったくそのとおりで」
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