113 / 184
宮廷の獣たち 一
しおりを挟む
楽士たちの奏でる曲にあわせて軽やかに踊る綺羅をまとった男女の顔は、いつしか晴れやかなものになっていった。アビラ子爵や、美貌と艶聞で有名な侯爵未亡人など、そうでない一部の貴族もいるが、大抵の貴族は善良な楽しみにひたって帝国の栄華をよろこびあった。
皆、安心しつつ、それでも心のどこか片隅で、美しくも淫らな絵を思い浮かべ、その夜はいけない夢を見ることになるだろう。
これは夢なのだとみずからを納得させ、安心し、それでいて、やはり、夢でなければ……、という願望を秘め、現と幻が混濁する夜明けの夢に翻弄されることになるだろう。
宴は果てることなく続く。
帝国の財と栄光をものがたるように、華やかで賑わいにあふれて。
「エンリケ、どうしたの? 踊らないの?」
「未亡人、あれをご覧なさい」
エンリケと呼ばれた若い貴族がこっそり指差した先には、宴のにぎわいに背を向けて去っていくアルベニス伯爵の背中があった。
「伯爵ね。あら、公爵も出ていくわ。花形二人が同時にご退場なんてつまらないじゃないの」
「いや、これから面白くなりそうですよ」
エンリケと呼ばれていた若者は、青い目にずるそうな光を浮かべた。
彼はアビラ子爵の長男である。バルトラ公爵とともにグラリオンにおもむき、あの淫らな婚姻の場に居合わせ、見てはいけないアベルの姿を見た帝国貴族の息子である。
父ゆずりの狡猾さを持ち、歳に似合わず世慣れ、いかがわしい場所にも出入りしているという噂の青年貴族は、アベルの様子に普通でないものがあることを早くから察していた。
「伯爵の様子はどこかおかしかったですよ」
「そりゃ、いろいろ言われているから」
数々の浮き名で知られた侯爵未亡人は、気心の知れた相手としゃべるときはあけすけで、若い娘のような口調になる。
「伯爵もお気の毒に。あれがもし本当に事実なら、とんだ災難だわね」
クスクスと笑いながら言う言葉には、口とは裏腹にあまり同情が感じられない。
「よく言いますね。あの書物を読みながら、散々楽しんで、自分にも木馬を買えなどと無茶を言っていたくせに」
皆、安心しつつ、それでも心のどこか片隅で、美しくも淫らな絵を思い浮かべ、その夜はいけない夢を見ることになるだろう。
これは夢なのだとみずからを納得させ、安心し、それでいて、やはり、夢でなければ……、という願望を秘め、現と幻が混濁する夜明けの夢に翻弄されることになるだろう。
宴は果てることなく続く。
帝国の財と栄光をものがたるように、華やかで賑わいにあふれて。
「エンリケ、どうしたの? 踊らないの?」
「未亡人、あれをご覧なさい」
エンリケと呼ばれた若い貴族がこっそり指差した先には、宴のにぎわいに背を向けて去っていくアルベニス伯爵の背中があった。
「伯爵ね。あら、公爵も出ていくわ。花形二人が同時にご退場なんてつまらないじゃないの」
「いや、これから面白くなりそうですよ」
エンリケと呼ばれていた若者は、青い目にずるそうな光を浮かべた。
彼はアビラ子爵の長男である。バルトラ公爵とともにグラリオンにおもむき、あの淫らな婚姻の場に居合わせ、見てはいけないアベルの姿を見た帝国貴族の息子である。
父ゆずりの狡猾さを持ち、歳に似合わず世慣れ、いかがわしい場所にも出入りしているという噂の青年貴族は、アベルの様子に普通でないものがあることを早くから察していた。
「伯爵の様子はどこかおかしかったですよ」
「そりゃ、いろいろ言われているから」
数々の浮き名で知られた侯爵未亡人は、気心の知れた相手としゃべるときはあけすけで、若い娘のような口調になる。
「伯爵もお気の毒に。あれがもし本当に事実なら、とんだ災難だわね」
クスクスと笑いながら言う言葉には、口とは裏腹にあまり同情が感じられない。
「よく言いますね。あの書物を読みながら、散々楽しんで、自分にも木馬を買えなどと無茶を言っていたくせに」
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる