黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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宮廷の獣たち 一

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 楽士たちの奏でる曲にあわせて軽やかに踊る綺羅をまとった男女の顔は、いつしか晴れやかなものになっていった。アビラ子爵や、美貌と艶聞で有名な侯爵未亡人など、そうでない一部の貴族もいるが、大抵の貴族は善良な楽しみにひたって帝国の栄華をよろこびあった。
 皆、安心しつつ、それでも心のどこか片隅で、美しくも淫らな絵を思い浮かべ、その夜はいけない夢を見ることになるだろう。
 これは夢なのだとみずからを納得させ、安心し、それでいて、やはり、夢でなければ……、という願望を秘め、うつつと幻が混濁する夜明けの夢に翻弄されることになるだろう。
 宴は果てることなく続く。
 帝国の財と栄光をものがたるように、華やかで賑わいにあふれて。


「エンリケ、どうしたの? 踊らないの?」
「未亡人、あれをご覧なさい」
 エンリケと呼ばれた若い貴族がこっそり指差した先には、宴のにぎわいに背を向けて去っていくアルベニス伯爵の背中があった。
「伯爵ね。あら、公爵も出ていくわ。花形二人が同時にご退場なんてつまらないじゃないの」
「いや、これから面白くなりそうですよ」
 エンリケと呼ばれていた若者は、青い目にずるそうな光を浮かべた。
 彼はアビラ子爵の長男である。バルトラ公爵とともにグラリオンにおもむき、あの淫らな婚姻の場に居合わせ、見てはいけないアベルの姿を見た帝国貴族の息子である。
 父ゆずりの狡猾さを持ち、歳に似合わず世慣れ、いかがわしい場所にも出入りしているという噂の青年貴族は、アベルの様子に普通でないものがあることを早くから察していた。
「伯爵の様子はどこかおかしかったですよ」
「そりゃ、いろいろ言われているから」
 数々の浮き名で知られた侯爵未亡人は、気心の知れた相手としゃべるときはあけすけで、若い娘のような口調になる。
「伯爵もお気の毒に。あれがもし本当に事実なら、とんだ災難だわね」
 クスクスと笑いながら言う言葉には、口とは裏腹にあまり同情が感じられない。
「よく言いますね。あの書物を読みながら、散々楽しんで、自分にも木馬を買えなどと無茶を言っていたくせに」
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