黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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魔軍の行進 七

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 金髪に碧眼、すらりとした姿態は、若いころはフェルディナンド王が夢中になったといわれるだけあって、今尚かなり美しく、その美貌の名残はじゅうぶん見られるが、すでにこの花は盛りを過ぎたことは否めない。
 女王の人生はけっして平穏無事なものではなかった。
 王家に生まれながらも、若くして両親をうしない、兄とは仲たがいし、弟には先立たれ、家庭にはめぐまれない幼少期を経、その後は散々権力争いに翻弄され、つねに勝ちぬき、いまは世界に名だたる大国の君主として君臨している。背負った痛みとうしなった歳月の分だけの人生の成果は充分に得ているといえるだろう。
「我が帝国の誇りであるそなたたち二人の無事な姿を見れて、余は嬉しい。これもすべては神の御加護……」
 二人に向けて女王は、今度ははっきりと微笑してくれた。
「御意。わたくしも、こうして両陛下にふたたび拝謁でき、嬉しいかぎりでございます」
 広間中に公爵の声が響きわたると、女王は満足そうにうなずいた。白いドレス姿の女王は聖母を思わせるほどに、おごそかである。
 公爵に笑いかけた女王は、今度はアベルに微笑みかけた。
「アルベニス伯爵、よくぞ無事で」
「グラリオンで連絡がいったん途絶えたときは、なにかあったのではないかと心配したぞ」
 女王につづいて、フェルディナンド王が笑いながらアベルに言う。女王の微笑とちがって、どこか含むものを感じさせる剣呑な笑い方だ。
「ご心配をおかけして……」 
 アベルがしおれた花のようにうなだれた。
 王に心配かけたことを恥じ入っているのだろうが、オルティスには、別の事情でアベルが身をすくませていることが察せられた。
「伯爵、どうした? 顔色がすぐれぬぞ」
 王がいかにも心配そうな顔を見せながら、顎髭をいじる。
「グラリオンでは辛いことはなかったか?」
 王の青目に、どことなく粘つくものがにじんでいる。
「……い、いえ、大丈夫です」
 アベルの声はかすかにふるえていた。
「今回の遠征では、伯爵はたいへん尽くしてくれました」
 すかさず公爵が口をはさむが、それは決して助け舟などではないことを知っているオルティスは、はらはらしてきた。
「ほう? そうなのか?」
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