黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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魔軍の行進 六

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 いつまで続くのか……。
 せめて王宮に着く前にはなんとかしてやらなければ、とオルティスが焦ったところでどうしようもない。
 オルティスはアベルから目が離せないでいた。 
 やがて、アベルの額に、玉のような汗がひとつぶ浮かんで消えた。このような麗人ならば、汗も涙も地に落ちるまえに真珠に変わるのではないかと夢見たくなりそうだ。
 アベルのいつもは冷たげにさえ見える青い瞳が潤み、頬がすこしずつ赤らんでいくのが、はっきりとオルティスにはわかった。 
 無表情をよそおってはいても、彼が今必死に耐えているもどかしさとやるせなさが、徐々につたわってくる。オルティスまでもたまらない気持ちになりそうだ。
 見ていてはいけない、と自分を叱咤してはみたものの、やはり、目は先駆けていく馬上の麗姿にうばわれてしまう。
 騎馬や徒歩の行列は延々とつづき、砂ぼこりをたてて、大通りを過ぎていく。やがて行きつく先は、この世の中心であり頂点でもある女王の宮殿である。
(あと、どれぐらい……)
 オルティスは胸に軽い痛みを感じながら考えていた。
 あと、どれぐらいアベルはこの残酷にも甘美な責めに耐えなければいけないのか。
 群衆の視線を浴びながら、地を這う黄金の大蛇のような軍列はつづいた。 


「若き勇士たちよ、よくぞ無事帰ってきた」
 久しぶりにまみえた女王は、心なしかやつれていた。
 長男である王太子の具合が悪いのだろう。隣の玉座にすわっているフェルディナンド王といい、この女王といい、人並みはずれて気概と活力のある両親から、どうしてああも繊弱な王子が生まれたのかふしぎだと、貴族たちがよく話していたのをオルティスは思い出した。
 燦然と光りかがやく宮殿に、公爵の付き添いとして大広間の片隅とはいえ、両王が見える位置に立つことをゆるされたのは、本来ならオルティスのような身分の者にはたいへん名誉なことのだが、今はあまり嬉しいとも思えない。
 ちょうど女王の座っている向かいに、バルトラ公爵とアルベニス伯爵はならんで伺候していた。当代一、二をあらそう美青年二人が、ともにならんで拝跪はいきしている光景は絵のようだが、そんな二人を見ても女王は一瞬笑みを浮かべただけで、顔にちらつく翳は消えなかった。
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