黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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魔軍の行進 四

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 公爵とは対照的に白い高級そうな衣装を着ているが、身をまもる鎧も武器もいっさいない。今の馬上のアベルは騎士ではなかった。
 馬の蹄がこぎみよい音楽となり、行進はたえまなくつづく。
 アベルはこわばった顔で、肌色はこころなしか青ざめて見える。
 手綱をにぎる手や、肩に力が入っているのが、オルティスにも察せられた。
 それも無理もないだろう。
 今日もまた彼の体内には……、卵がひとつ入っているのだ。
 今朝、公爵がみずからの手で入れたのだ。
 オルティスも全身をかたくして、その様子を見守っていた。
 アベルのもらした溜息が、恨みのうめき声が耳にこびりついていて、今もこの民衆の喝采のなか、オルティスの鼓膜に響いてくる。
 最初、公爵はどこまで本気なのか、アベルに罰衣を着せて裸馬にくくりつけて帝国の民に見せてやりと言ったのだが、オルティスが必死に止めた。
 そんなことをすれば、公爵もまた声望を落とすぐらいのことではすまされず、未来を失うことになるのだから、と説得というより、懇願した。
 いくらか不満そうな顔を見せながらも、さすがに公爵も理性はのこっていたようで、最後には納得し、アベルには白絹に黒と金の刺繍模様が入った美しい晴れ着をきせた。その洗練された衣装は似合っている。
 こうしてあらためて正装したアベルを見て、オルティスは内心感嘆してしまう。
 生まれ育ちによってつちかわれた天性の気品はすこしも崩れておらず、上等な衣をまとって馬に乗ったアベルは絵のように美しい。
 あれほど責めいたぶられ、乱れたのが嘘のように清廉そのものの姿で、オルティスはほとんど感動した。
 陽光の下、光につつまれて輝く美しいアベルを見ていると、妖しい月光の下、霞をまとったアベルもまた思い出されてくるから不思議だ。
 昼のアベル、夜のアベル、どちらのアベルも美しく、オルティスを驚かせ悩ませる。
 彼は創造主のつくりだした最高の作品なのだ。そうして地上におくられたこのたぐいまれなる芸術品は、見る者のこころを騒がせずにはいない。騒がされた方はたまらない。
 創造主は、アベルのような生きた美術品を、周りがどう扱うか試すべく地上におくりだしてくるのではないだろうか。愚かな人間が美に惑わされ、どう動くのか、それを今も天上から観察しているのかもしれない。
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