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魔軍の行進 三
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(この先の運命が怖くはないのだろうか?)
一瞬、気が触れているのだろうかとオルティスはうたがったが、女の目には強烈な自我が感じられる。強い意志を持った者の目だ。
「あれが、グラリオン後宮の筆頭寵姫とかいうのだそうだ」
背後の兵士たちの囁き声が聞こえてくる。
「寵姫? 正妻ではないのか? 妾か?」
「妾のようなものだが、後宮では幅をきかせていたらしい」
ほら……、あの本にも書かれていた……。
そんな囁きが聞こえてくる。
「ほう。あれがグラリオンで有名な後宮一の淫売か。道理でな」
「たしかに美人だな。たいした好き者だというではないか?」
揶揄や嘲りは女の耳にも届いているはずだが、女は歯牙にもかけていない様子だ。どこまでも太々しげな女のようだ。
(だからこそ、あんな恥知らずな真似ができるのだろう)
オルティスは、昨夜こっそり読んだ書物の一場面を思い出した。
宦官たちに命じて、無理やりA伯爵を木馬に乗せるおそろしい魔女。恐るべき毒婦アイーシャ。
笑いながらA伯爵をなぶった寵姫の絵が瞼にうかぶ。
艶やかな黒髪を振りみだし、背徳の行為を平然とおこなう後宮の女主の姿は、美しくもおぞましい。そして、バルバラと似ているとも思う。容姿よりも雰囲気が。
大通りにならぶ人々の視線を一身に受けて、女は恥じらいもせず顔をあげつづけ、まるで我こそは女王とでもいうように威風すら見せつけて歩きつづける。
奴隷たちの群のあとには、黒い甲冑すがたの騎士が三人黒馬でならぶ。
そして、そのあとには、対照的に白い馬が一頭。
あ……。
オルティスは眩しいものを見るように、馬上の人を眺めていた。
白馬の手綱をあやつっているのは、アベルだった。
彼だけは甲冑をまとっていない。それどころか剣もない。
一瞬、気が触れているのだろうかとオルティスはうたがったが、女の目には強烈な自我が感じられる。強い意志を持った者の目だ。
「あれが、グラリオン後宮の筆頭寵姫とかいうのだそうだ」
背後の兵士たちの囁き声が聞こえてくる。
「寵姫? 正妻ではないのか? 妾か?」
「妾のようなものだが、後宮では幅をきかせていたらしい」
ほら……、あの本にも書かれていた……。
そんな囁きが聞こえてくる。
「ほう。あれがグラリオンで有名な後宮一の淫売か。道理でな」
「たしかに美人だな。たいした好き者だというではないか?」
揶揄や嘲りは女の耳にも届いているはずだが、女は歯牙にもかけていない様子だ。どこまでも太々しげな女のようだ。
(だからこそ、あんな恥知らずな真似ができるのだろう)
オルティスは、昨夜こっそり読んだ書物の一場面を思い出した。
宦官たちに命じて、無理やりA伯爵を木馬に乗せるおそろしい魔女。恐るべき毒婦アイーシャ。
笑いながらA伯爵をなぶった寵姫の絵が瞼にうかぶ。
艶やかな黒髪を振りみだし、背徳の行為を平然とおこなう後宮の女主の姿は、美しくもおぞましい。そして、バルバラと似ているとも思う。容姿よりも雰囲気が。
大通りにならぶ人々の視線を一身に受けて、女は恥じらいもせず顔をあげつづけ、まるで我こそは女王とでもいうように威風すら見せつけて歩きつづける。
奴隷たちの群のあとには、黒い甲冑すがたの騎士が三人黒馬でならぶ。
そして、そのあとには、対照的に白い馬が一頭。
あ……。
オルティスは眩しいものを見るように、馬上の人を眺めていた。
白馬の手綱をあやつっているのは、アベルだった。
彼だけは甲冑をまとっていない。それどころか剣もない。
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