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心砕けて 一
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「そうさ。こんな上玉を殺すなんて、もったいない」
けらけらと笑いながらバルバラが口をはさむ。
「こんな、こんなことをして、なにが面白いのだ!」
「充分おもしろいさ。帝国きっての貴公子アルベニス伯爵が、お道具を呑みこんでよがっているところなんぞ、滅多にお目にかかれるわけじゃなし」
またもバルバラが口をはさみ、アベルを憤慨させる。
「おまえは……、おまえたちは、地獄に堕ちる!」
「そんな、当たり前のことを今さら言われてもな。ああ、もうごたくはいいから早く後ろをむいて尻を出せよ。もたもたしていたら夜が明けてしまうじゃないか。公爵、手伝ってくれよ。お姫様がちっとも言うことをきいてくれないのだ」
「ああ」
今まで傍観者を気取っていた公爵が手を伸ばしてきたので、アベルは狼狽した。
「いやだ、よせ! くるな!」
「こら、アベル、逆らうな。おまえの身体を慣らすために必要なのだぞ。ちゃんと練習をつんでおかないと、帝国についたころには、また身体が固くなってしまうだろう?」
「それだと、客をもてなせないかもしれないから心配なんだろう?」
げらげらとバルバラがまた笑う。
「まあな」
「くくくく。グラリオンでは卵を呑まされたそうだが、今度は、道具をふくませて屋敷の廊下を歩かせてみたらどうだ? 勿論、客たちの前で」
アベルの顔ににじむ苦渋と屈辱、恥辱。怒りと憎悪、無念が、完璧な芸術品のように美しい顔に、ふしぎな陰影をつけて、見る者の心をおどらせることに、当のアベルはけっして気づかないだろう。
オルティスは、公爵やバルバラがアベルを異常に責めたがるわけが、ほんの少しだけ理解できてしまった。
心を痛めつけられ、怒りと悔しさに燃える瞬間、人形が生きた人間になるような錯覚をおぼえるのだ。
けらけらと笑いながらバルバラが口をはさむ。
「こんな、こんなことをして、なにが面白いのだ!」
「充分おもしろいさ。帝国きっての貴公子アルベニス伯爵が、お道具を呑みこんでよがっているところなんぞ、滅多にお目にかかれるわけじゃなし」
またもバルバラが口をはさみ、アベルを憤慨させる。
「おまえは……、おまえたちは、地獄に堕ちる!」
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「ああ」
今まで傍観者を気取っていた公爵が手を伸ばしてきたので、アベルは狼狽した。
「いやだ、よせ! くるな!」
「こら、アベル、逆らうな。おまえの身体を慣らすために必要なのだぞ。ちゃんと練習をつんでおかないと、帝国についたころには、また身体が固くなってしまうだろう?」
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