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淫虐遊戯 十
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この稀代の娼婦には、娼婦稼業の女がかならず持ち合わせている媚というものがまるでない。
一見、金で買われて、男たちのいいようにされ、もてあそばれているように見えても、実際にはつねに閨での主導権をにぎっていたのは彼女の方なのだ。彼女はそれができる娼婦の女王である。
帝国一、二をあらそう権力者であるエゴイ=バルトラ公爵よりも、おなじく帝国有数の名門貴族であるアベル=アルベニス伯爵よりも、この場でもっとも強いのは、娼婦バルバラ=ディアスなのかもしれない。
「くくくくくく。お許しが出たようだから、今度は後ろで遊んでやろう」
いつの間に取り出したのか、バルバラの手には珍妙な道具があった。公爵が驚いていないのは、その道具はもともと公爵が天幕内に用意していたものらしい。
その道具とは。一目見て、オルティスは目を逸らしてしまった。
見せびらかすように、バルバラが手ににぎっている物をアベルの鼻先に押し付けると、アベルの碧眼には憎悪と嫌悪の火がちらついた。
ややうっすら琥珀色めいて見えるその道具は、象の牙でつくられたものらしい。
形で、何のための道具か悟ったオルティスは、耳朶まで熱く燃えるのを感じた。帝国では、持っているだけでも罪に問われる冒涜物である。
「なんだよ、そんな顔することないだろう?」
内心オルティスはおびえたが、バルバラの声は、アベルに向けられたものだった。
「こんなもの、たいしたものじゃないだろう? グラリオンではいろんなお遊びを覚えてきたというじゃないか?」
「お、おまえは、本当に下劣な淫売だな」
苛烈な憎悪の念がこめられた言葉を投げつけられても、バルバラはどこ吹く風と飄々としている。
「ああ、もう聞き飽きたさ。さぁ、伯爵、後ろを向いて、俺のまえに尻を突き出せ」
「こ、断る! 死んだ方がましだ!」
バルバラに怒鳴ってから、アベルは公爵を見る。
憎悪に煮えたぎったアベルのエメラルドの瞳に、かすかにだが黄昏の雨のような哀しみが光った。
「い、いったい、どれだけ私をいたぶれば気がすむのだ? そんなに私が憎いのなら、さっさと殺せばいい!」
バルバラではなく、公爵にアベルは怒鳴りつけた。
「なにを言う、アベル? おまえを殺すなど出来るわけがないだろう」
一見、金で買われて、男たちのいいようにされ、もてあそばれているように見えても、実際にはつねに閨での主導権をにぎっていたのは彼女の方なのだ。彼女はそれができる娼婦の女王である。
帝国一、二をあらそう権力者であるエゴイ=バルトラ公爵よりも、おなじく帝国有数の名門貴族であるアベル=アルベニス伯爵よりも、この場でもっとも強いのは、娼婦バルバラ=ディアスなのかもしれない。
「くくくくくく。お許しが出たようだから、今度は後ろで遊んでやろう」
いつの間に取り出したのか、バルバラの手には珍妙な道具があった。公爵が驚いていないのは、その道具はもともと公爵が天幕内に用意していたものらしい。
その道具とは。一目見て、オルティスは目を逸らしてしまった。
見せびらかすように、バルバラが手ににぎっている物をアベルの鼻先に押し付けると、アベルの碧眼には憎悪と嫌悪の火がちらついた。
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形で、何のための道具か悟ったオルティスは、耳朶まで熱く燃えるのを感じた。帝国では、持っているだけでも罪に問われる冒涜物である。
「なんだよ、そんな顔することないだろう?」
内心オルティスはおびえたが、バルバラの声は、アベルに向けられたものだった。
「こんなもの、たいしたものじゃないだろう? グラリオンではいろんなお遊びを覚えてきたというじゃないか?」
「お、おまえは、本当に下劣な淫売だな」
苛烈な憎悪の念がこめられた言葉を投げつけられても、バルバラはどこ吹く風と飄々としている。
「ああ、もう聞き飽きたさ。さぁ、伯爵、後ろを向いて、俺のまえに尻を突き出せ」
「こ、断る! 死んだ方がましだ!」
バルバラに怒鳴ってから、アベルは公爵を見る。
憎悪に煮えたぎったアベルのエメラルドの瞳に、かすかにだが黄昏の雨のような哀しみが光った。
「い、いったい、どれだけ私をいたぶれば気がすむのだ? そんなに私が憎いのなら、さっさと殺せばいい!」
バルバラではなく、公爵にアベルは怒鳴りつけた。
「なにを言う、アベル? おまえを殺すなど出来るわけがないだろう」
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