黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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淫虐遊戯 七

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「ああっ……、だめ……だ……、ああ、もう駄目だ……!」
 女が言うような台詞をこぼしながら、アベルは崩れていく。文字通り身体も心も溶けるようにくずおれていく。
 大輪の白薔薇が枝から落花する様子を眺めているようだ。
「あっ……、はぁ……」
 がくがくと、アベルの膝が震えている。
 オルティスはあらためて息を飲んだ。
 筆でたくみに描いたように形の良い金色の眉が、苦しげにゆがみ、幾たびとなく噛みしめらたせいで、うっすら紅を塗ったかのような唇が開いたり閉じたりしている。
 帝国最大の名花は、今、落ちようとしている。
 オルティスの胸は痛みを訴えつつも、ときめく。
 自分は今、奇跡の瞬間を見ているのではないだろうか、と大袈裟ながらもオルティスは思ってしまう。
 あの書物のつたえる物語がすべてアベルの身の上に起こった真実であるなら、あれほど異常な凌辱を受け、この旅のあいだにも手酷い辱しめを受けつづけ、いったいなぜこの人は、こうも美しく気高いのだろう、と真夏に雪を見るような素朴な疑問がオルティスの若い胸にわく。
 今のように幾度も幾度も嬲られながら、どうしてこの人は、こうも清らかに見えるか。
 いや、清らかに見えるだけではなく、実際、清らかなのだ。げんに今も、これほど浅ましい真似をされているというのに、アベルの持つ純真さはけっして汚されていない。
 オルティスは、アベルの様子にほとんど迫力を感じ、呆然となってしまう。
「はぁ――! ああっ、ああああっ!」
 オルティスは咄嗟に腰に力を入れた。
 びくん、と岸に引きずりあげられた白魚のように、アベルの全身がはじける。オルティスの胸もはじけた。

 閉じられたままのアベルの瞼から、あふれんばかりに銀のしずくがしたたり、頬を濡らす。
 しばし、誰も口を聞かなかった。公爵でさえ静かだった。
 やがて、耳をつんざくようなバルバラの哄笑。
 たからかに鳴りひびく悪女の勝利宣言に、アベルの白い顔はますます色を失っていく。
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