黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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魔窟の夜 九

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 バルバラの話を聞いたあとではオルティスの司教への同情は薄くなるが、アベルは身体をふるわせている。
「な、なんということを……!」
 驚愕顔のアベルを鼻で笑い、バルバラは冷たい目を向ける。
「お、おまえは、無実のカランサを罠に嵌めたのだな……! カランサ司教の信仰を汚したのだな……!」
 刹那、バルバラの碧眼が火を吹いた。
 それを受け取めたアベルのおなじ色に見えてかすかにちがう色の瞳は、わずかにゆるぎを見せた。
「なにが無実だ、なにが信仰だ! あいつは、子どもを母親の前で強姦したのだぞ! 母親のまえで子どもを強姦したのだぞ! 父は火刑にされ、母は自殺。のこされた俺たちは娼婦にされて、毎日そこで男を取らされた! 俺たちはあの地獄で、連日連夜、いったいどうやって生き延びて彼奴きゃつに復讐するか、それだけを生きる理由にして……、ああ、もういいさ、こんな昔話は」
 一瞬、涙ぐんだように見えた瞳は、つぎの瞬間には残酷にきらめいた。
「ふん。清廉な伯爵様、あんたは自分のことを心配した方がいいぞ。さぁ、無駄話は終わりだ。これから、たっぷり泣いてもらうぜ」
 またも男女逆転したかのように、バルバラがアベルににじりよる。
「く、くるな! くるな、淫婦! お、おぞましい異教徒!」
「その淫婦の異教徒の技がどれだけのものか、教えてやるさ」
 妙にゆっくりとした動作でバルバラは膝をつくと、アベルの前にかがんだ。
「うっ……!」
 燃えるように赤い舌がアベルの、可憐とすらいっていいような男の象徴を攻撃する。
 オルティスは見ていて頭がくらくらしてきた。
「あっ、よせっ、よせっ!」
 悔しげに眉をよせ、首を左右に振る様は、どんな女よりも色っぽく、白い項や胸もとはなまめいて見える。
「ううっ……!」
 強制された快楽にくるしむアベルの悲痛な横顔は、創造主の手によって作りあげられたひとつの芸術品のように美しい。
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