黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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異形の娼婦 六

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 アベルは反抗はしないが、さすがに一瞬、唇を噛みしめるのをオルティスは見た。
 バルバラの手の動きによって、紐は動き、アベルの白く繊細そうな肌に刺激をおくるのだ。
「どうだい、縄の感触は? 絹だから、そう痛くはないだろう? これは貴人を縛るときに使うものなのだよ。なんといっても貴顕の方々は我が儘だからね。自分で縛って欲しいと言っておきながら、痛くしたり跡が残ったりすると怒るのだから、あつかいが厄介だよ」 
 一歩さがって、バルバラは己が創りあげた芸術品を鑑賞するように目を凝らした。
 実際――、それはたしかにひとつの芸術品だった。オルティスもやはり目を凝らしてしまう。
 アベルの染みひとつない雪白の肌に、目に鮮やかな真紅の紐が食い込み、まるでアベルの身体と同化したほどに、そうあるのが自然なことのように見えるほど、それは……、奇妙な表現だが、アベルにふさわしく見えた。
 高価な美衣や宝石が似合うように、血の色の紐縄はアベルの肉体にぴったりと似合っているのだ。
 男とは思えぬほどにやわからそうな項に散る金の髪とからみあうような紅紐。その紐に割られた胸上で、かすかに喘ぐようにふるえる薄桃色のちいさな突起。胸下から腹のあたりまでは一本の紐がとおり、腰のあたりはまた奇妙な文様のように複雑にからみあって、見る者の目を引く。
「どうだい? この股間のあたりなど、なかなか巧いものだろう?」
「ああ、素晴らしいな。いっそう、黄金の叢が強調されるようだ。ああ……! たしかに可愛いものだな。アルベニス伯爵、そんなに怯えることはない。なかなか美しいものだぞ」
 挑発的な公爵の笑い声に、アベルはやはり無言だった。
 閉じた瞼からは、今にも涙があふれるのではないかとオルティスは胸をかきむしられるほどに心配したが、アベルの顔はこわばったままで、弱さも哀しみも見せない。
 そんなアベルをどう思ったのか、公爵の顔はさらに残忍そうにゆがんだ。
「本当に、なんと美しい格好だろう。傑作だな。帝国に帰ったあかつきには、女王の御前に、グラリオンからの贈り物として献上したいな」
「そりゃ、傑作だね。そのときは、この……可憐な後ろの蕾から札をさげておいたらどうだい? グラリオン王、いや、『前王からの贈りもの』と」
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