黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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異形の娼婦 五

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 つくづく不思議になる。公爵は、いったいアベルが愛しいのか、憎いのか。痛めつけたいのか、大事にしてやりたいのか。
 もしかしたら、その両方なのかもしれない。傷つけたいと思う一方で、いたわってやりたい、という相反する感情を持っているのかもしれない。オルティスには、公爵という人間は複雑すぎて理解不能だった。
 さらにまたアベルにたいしても理解できないものがある。
 アベルがもう少し自分の心身を大切に思うのなら、いっそ演技でもよいから公爵に向きあってみせればよいのに、アベルは意識してか、無意識か、美しい碧の瞳に公爵を映そうとしない。
(なにも公爵に媚びろとは言わないが……)
 敵の情けをすこしでも引き出して身を守ろうというのは、自分のような下賤の身の考えで、生まれながらの貴族であるアベルにはそういった打算や妥協はいっさいないのかもしれない。
 一向に公爵にこたえようとしないアベルに、業を煮やしたかのように公爵は怒鳴った。
「おい、アベル、こっちを見たらどうだ? おい、俺を見ろ!」
 アベルの表情は氷のように冷めたものだった。いや、凍てついているとさえ言える。
 ぎゃくに公爵の顔は怒りにどす黒く燃えていた。
 たしかに、今のアベルは彼にできる最大の抵抗と攻撃をしているのかもしれない。
 相手にならない、ということで、強烈な一撃を公爵にあたえているのだ。
 オルティスは背に緊張を感じながら、ただ見ていた。
「おやおや、完全に嫌われてしまったな。まるで相手にしてもらえないようだ」
 くすくすとバルバラが笑う。  
「ふん。俺を無視できると思うなよ」
 振り向くや、公爵はバルバラに告げた。
「なにをしている? はやくおまえの素晴らしい縛りを見せてくれ」
「ああ、見せてやるよ」
 バルバラは、先ほどから手に持ったままだった縄紐を軽くひっぱり、扱くようにした。
「うっ……」
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