黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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異形の娼婦 四

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 公爵の遠慮のない笑い声がひびく。おそらく幕外にも響いているだろう。
 バルバラを真似るように、公爵もまたのけぞって笑った。
「いやいやながらも、下僕の命を救うために、心優しく気高き伯爵は、異教徒たちの前で腰を振り、泣きじゃくりながらも膝を屈し、尻を落とし、白い頬を涙で濡らしつつ、むごい命令を果たすべくつとめた……。ああ、なんと美しい、哀れな伯爵。故国にあっては、千紫万紅せんしばんこうの花園に咲く大輪の白薔薇とたたえられた美貌の貴公子は、今は気高き殉教者となりて、ふるえながら、尻を突き出し、野蛮人たちの見守るなか、ついにはその可憐な後ろの蕾をひらき、卵を産み落とし……と。傑作だったね。ここを読むたびに、笑ってしまって、司教に叱られたよ。せっかくの気分が台無しになるだろうと。でも、笑わずには読めるか?」
 甲高い笑い声が響く。まぎれもなく女の声だ。
「まったくだ」 
 しばし、二人の狂人は、哀れな麗人をはさんで、狂気めいた笑い声をあげた。
 その嘲笑を聞いているのか、いないのか、アベルの白い肌は青白く映える。
 オルティスは不安になってきた。
 怒りをとおりこして、感情がまた麻痺している段階にいってしまっているのかもしれない。
 今までにも幾度か、無言で無表情になるアベルを見たことがあるオルティスは、不吉で不穏なものを感じずにいられない。
「おい、なにをむっつり黙っているのだ? 感想を聞きたいな」
 公爵は笑いつつも、顔にはかすかに怒りが見える。
 アベルは無言のままだ。
 どういうわけか、アベルが今のように、まるでそこにいる公爵を無視するかのように、何も言わず反抗もせず、動揺も見せず、鉄面皮に徹すると、公爵は機嫌が悪くなり、そのあとはいっそう残酷になるのだ。
 逆にアベルが怒りをあらわにし、素の感情のままに、公爵を罵ったり、抗ったりすれば公爵は満足を得て、機嫌が良くなり、そのあとはアベルの待遇もましになるのだ。
 手足についた縄のあとに薬を塗ってやったり、汗をぬぐってやったり、半ば無意識のアベルの口元にみずからの口で水をふくませてやったりと、こまごまと公爵がアベルの世話するのを見てオルティスは仰天したことがある。
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