黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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訪問者 七

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 公爵の言うお姫様とは、バルバラのことではなく、アベルだということはオルティスにもわかった。
「香油も用意してあるか?」 
 まるでバルバラの方が上位の人間のような言い方をする。それを眉ひとつしかめず、公爵はうやうやしくこたえた。
「極上のものをそろえてあります」
「道具は?」
 二人で奇妙な芝居を演じているかのようだ。
「それも黄金とおなじぐらいに値のはる香木でこしらえたものがございます」
「孔雀の羽はあるかい?」
「ございますとも。バルバラ女王のお気に召しそうな上等のものですよ」
 公爵のふざけた言い方にオルティスは呆れた。
「木馬は? 道具つきの」
「それは、さすがに」
「な、なにを言っているのだ、おまえたちは!」
 アベルの肌は薄暗い天幕のなかでも燐光をはなっているかのように、ほんのり青白く輝いている。冷たい水底で光る真珠のように白く冷ややかそうなその肌が、今は怒りと恐怖に虹色に燃えている。
「ああ、怒れば怒るほど美しくなるのだな、あんたは」
 バルバラが感嘆を込めて、歌うように言いはなつ。
「たまらないな。さぁ、公爵、早く縄を」
「こちらに」
 今まで気づかなかったが、寝台の端の下あたりに、木箱が置かれてあった。
 蓋を開けて、公爵がなにやら中を探っている。本来なら、そういう事はオルティスがするべきだが、オルティスでは勝手がわからないので、公爵みずから動いたようだ。
 それに、公爵はバルバラの前では、ふざけてのことであろうが、彼女の臣下のような振る舞いをしている。これは二人のあいだで行われる遊戯で、その決まりにしたがっての言動のようだ。
「どうぞ、バルバラ女王陛下」
 それこそバルバラという〝女王〟に仕える忠実な騎士のごとく、オルティスは片膝を折って、手にしたものを捧げる。
 それは血のように赤い真紅の紐だった。
 アベルは青ざめ、オルティスも背筋をこわばらせた。 
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