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訪問者 一
しおりを挟む時間は、ひどくゆっくりと過ぎていったかのようにオルティスには感じられた。
日中はアベルは相変わらず裸馬に惨めな姿で縛りつけられ、兵士たちや沿道にむらがる田舎人たちの目に晒された。
そして夜ともなれば、公爵の残酷な凌辱――実際に身体を犯されることはなかったが、それはまさしく精神的凌辱行為である――を受け、昼となく夜となく悶絶させらる日が三日過ぎた。
そのあいだもオルティスとドミンゴはつねに公爵に呼ばれ、その場に居ることを命じられ、アベルの煩悶する姿を見つめつづけることになる。ドミンゴにとっては望むところだろうが、オルティスは複雑だ。
信仰心篤いオルティスには、この状況はかなり負担で辛い。だが、命じられればそこに居ざるを得ないし、ぎゃくに呼ばれなくなったら、それはそれでやきもきするだろう。
公爵の苛烈で容赦ない調教は終わることがないように続く。
もはや朝も昼もないような、始終どろどろと濁った夢のなかをさまよっているような気分にオルティスはなってきた。
傍で見ているオルティスがそんなふうに麻痺した心理状況になったぐらいなのだから、当のアベルはどうなのか。
おそらく、もはや自分が生きているのか死んでいるのかさえもわからないような混沌とした気持ちだったにちがいない。
やがて軍隊は帝国領土の境目の、小さな村にまでたどりついた。
ここまでくれば、もはや祖国である。
兵たちの顔からも緊張は消えた。
それぞれ馬の世話や武具の手入れにはげみ、村人から果物を買ったり、村の女や子どもたちに声をかけたり、こういった場所でも旅の商人相手にほそぼそと営んでいる女郎屋に向かったりと、皆すっかり気がゆるんでいた。
夕暮れどき、いつものようにアベルにあてがわれた天幕内で、ぐったりと疲れ果てたアベルの世話をしていたオルティスは、突然、珍客をむかえた。
「失礼、公爵はどちらかしら?」
間違いなく帝国の言葉、それもかなり上流階級の喋り方でたずねられ、仰天した。
天幕の入り口に立っている人物は、質素な旅装に身をやつしてはいても、どことなく上品な雰囲気をただよわせている。
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