黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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淫夢のなかで 十

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「こら! 誰が止めてよいと言った? ほら、つづけろ」
 怒りと楽しさが入り混じった世にも残酷な顔で公爵は告げた。
 この蒙昧もうまいの時代の身分制度は、このような人非人に、生まれ落ちたそのときから、玉座にも次ぐという高い地位と巨万の富をあたえたのだ。そしていかなる気まぐれか、創造主はこの陰険な男に、ずば抜けた知性と、強靭な体躯と、整った顔だちをあたえた。
 そこにいるのはバルトラ公爵という名の、この世の理不尽の象徴そのものであった。オルティスは内心溜息をつきそうになる。
「いいか、ドミンゴ、このざまを、よく見ていろ。そしてまた絵にして、帝国中の連中に見せてやるがいい」
「かしこまりました」
 滑稽なほど慇懃にドミンゴが返事をする。
 アベルの閉じた瞼から、銀色の滴をあふれだす。ついに堪えきれなくなったようだ。
「アベル、おまえの泣き顔はまた麗しく見ていて楽しいが、手は休めるなよ」
 ほんのひとかけらでも情というものがある人間なら、アベルの涙に心を打たれないわけはないが、公爵には、そのほんのひとかけらの情もないようだ。
 いや、公爵の場合は、別の意味に心打たれ、いっそう嗜虐癖を増すのかもしれない。
「ほら、さぼっていないで、手を動かせ」
「ああ!」
 アベルのなかで、感情の堰が切れたのかもしれない。
「な、何故……、何故、私にこんな仕打ちをするのだ! な、なぜ、私はこんな目に遭わないといけないのだ!」
 涙声で訴えるアベルの姿は悲痛である。だが、痛々しければ痛々しいほどに、さらに美しさを増すのだからふしぎだ。
 美しい人は、怒っても美しく、泣いても美しく、悲しんでも美しく、その一瞬一瞬の感情の発露のすべてが、一幅の絵のように様になることを、こんなときだがオルティスは知らされた。
「なぜ、と言われても俺にもうまく説明できないのだがな」
 にやにやと笑いながら、公爵は顎を撫でた。その仕草は、いきなり十歳も歳を経たかのようにひどく大人びて、というより老けて見えた。
「俺はおまえを見ているだけで、どうにも堪らない気分になってくるのだ」
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