黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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淫夢のなかで 八

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 伯爵であるアベルにたいしても、これだけ没義道もぎどうな真似を平然とする男である。オルティスを気に食わないと思えば、あっさりと切り捨て、命ですら平気で奪うだろう。
「さあ、どうした? 裾をまくりあげて、よく見えるようにしろ」
 下劣で残酷な命が天幕の内にひびく。
 アベルは真赤になって羞渋する。その姿は見る者の胸を焦がす。
 ドミンゴの目は好奇と欲望に潤み、右の手や指が妙な動きをしている。
 おそらく、描く物を求めているのだ。今すぐに描きうつせないアベルの姿態を脳裏に焼きつけているのだろう。この後、この出来事もすべて文を添えて色鮮やかに絵物語として形を成し、人々の目に晒され、世にも淫靡で残酷かつ官能的な物語として喧伝され、後世にも伝わることになるのだろう。
 傍で見ているオルティスはぞくぞくしてきた。
 いけないとは思いつつ、若い心と体はアベルの次の動きを待ってしまう。
「ほら、さっさとしろ。やれないのなら、オルティスに手伝わせるぞ」
 公爵の言葉にオルティスの全身が火を吹くように燃える。そんなことを命令されたら自分はどうすればいいのか。
「他の兵士たちも呼ぶぞ」
 この脅しは強烈だったようだ。
「う……うう……」
 アベルは悔しげに小さく唸った。
 オルティスはやはり目を疑ってしまう。
(これは、うつつのことなのだろうか……?)
 そう思わずにいられない。
「ああ……」
 アベルの、しなやかな腕が身じろぎ動き、男にしては細い指が、ふるえながらも下肢に向かう。
 その白い腕も手も、かつて両王御来臨の御前試合で長剣をあやつり、自分の身体の倍もあろうかという巨漢を一撃のもとにひれ伏させた帝国有数の誇りたかき戦士のものである。
 ごくり……と、オルティスは生唾を飲んでいた。
 粗末な衣の裾がたくしあげられる。アベル自身の手によって。
 あらわになった下半身は、もはや隠すものもない。
「ああ……」
 自らおのれを傷つける恥辱の行為を、アベル=アルベニス伯爵は憎い公爵と、かつての下僕と下級騎士のまえで行った。
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