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淫夢のなかで 六
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「そうだ。なんべんも言わせるなよ」
まったくこたえることもく、あっさりと公爵は言う。
屈辱に頬を燃やしながらも、抗うことができないアベルは、おずおずと寝台の上に立った。
「そうだ、いい子だ。そこで……自分でしてみせろ」
オルティスは自分の頬まで熱くなったのを感じた。
命じられたアベルは怒りに全身から火を吹きそうだ。
「よくも、よくも……そんなことを……!」
透きとおった碧石にも似た瞳を潤ませ、怒りにふるえるアベルの姿は、匂いたつような官能美にあふれて、男たちの欲望をさらに刺激するのだが、当のアベルはそのことに気づいていない。
「ほら、何をしている? 衣をたくしあげて、よく見えるようにしろ」
「お、おまえは、そこまで愚劣な男なのか? 恥を知れ、エゴイ=バルトラ! それでも帝国貴族なのか?」
蔑みと怒りに満ちたアベルの声は、もし自分が言われた当人なら、慚愧のあまり死にたくなるとオルティスに思わせるほど苛烈なものをふくんでいるが、バルトラ公爵にとってはまったく意味がないらしい。
「そうだとも、俺は恥などとっくの昔に捨てているのでな」
「わ、私にこんな真似をして……それで、おまえは何食わぬ顔をして両陛下に拝謁するのか? 女王陛下に顔向けできるのか?」
両陛下とは女王の夫である王と、女王自身のことである。帝国は夫婦の王と女王ふたりによる共同統治でおさめられているのだ。
そして女王イサベラは、アベルが、アルベニス伯爵がこの世で愛する唯一の女性と言われている。もちろん、帝国の人間なら誰しも女王を敬愛しているが、アベルの女王への忠烈は有名である。アベルが貴族の令嬢や未亡人、ときに人妻に秋波をおくられてもいっこうになびかないのは、女王への愛があまりに強すぎて他の女性など目に入らないからだろう、などと貴族社会では囁かれていた。
まったくこたえることもく、あっさりと公爵は言う。
屈辱に頬を燃やしながらも、抗うことができないアベルは、おずおずと寝台の上に立った。
「そうだ、いい子だ。そこで……自分でしてみせろ」
オルティスは自分の頬まで熱くなったのを感じた。
命じられたアベルは怒りに全身から火を吹きそうだ。
「よくも、よくも……そんなことを……!」
透きとおった碧石にも似た瞳を潤ませ、怒りにふるえるアベルの姿は、匂いたつような官能美にあふれて、男たちの欲望をさらに刺激するのだが、当のアベルはそのことに気づいていない。
「ほら、何をしている? 衣をたくしあげて、よく見えるようにしろ」
「お、おまえは、そこまで愚劣な男なのか? 恥を知れ、エゴイ=バルトラ! それでも帝国貴族なのか?」
蔑みと怒りに満ちたアベルの声は、もし自分が言われた当人なら、慚愧のあまり死にたくなるとオルティスに思わせるほど苛烈なものをふくんでいるが、バルトラ公爵にとってはまったく意味がないらしい。
「そうだとも、俺は恥などとっくの昔に捨てているのでな」
「わ、私にこんな真似をして……それで、おまえは何食わぬ顔をして両陛下に拝謁するのか? 女王陛下に顔向けできるのか?」
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そして女王イサベラは、アベルが、アルベニス伯爵がこの世で愛する唯一の女性と言われている。もちろん、帝国の人間なら誰しも女王を敬愛しているが、アベルの女王への忠烈は有名である。アベルが貴族の令嬢や未亡人、ときに人妻に秋波をおくられてもいっこうになびかないのは、女王への愛があまりに強すぎて他の女性など目に入らないからだろう、などと貴族社会では囁かれていた。
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