黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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淫夢のなかで 三

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「ああ、もうよせ! やめろ! やめろったら!」
 アベルは子どものようにあわて、狼狽し、ドミンゴにむしゃぶりつくような行動をした。聡明で知られたアベルの、めったに見られない幼稚な態度に、見ているオルティスも気を引かれてしまう。
 ドミンゴはみずからしがみついてきたアベルを抱きしめ、その顔に頬ずりした。
「木馬の上で悶えるあなたは、まさに神の造りたもうた一個の芸術品だった」
「ああ、もう、もう……!」
「この、髪が……」
 ドミンゴが己の無骨な指に、アベルの金の絹糸のような髪をからませる。
「この黄金の髪が汗でしっとり濡れて、全身に玉の汗を貼りつかせて……あなたは、木馬の上で自ら腰を振った」
「よせ! よせ! それ以上言うな!」
「思い出してください、あのときのことを。私はあのとき、あなたの胸を愛撫した宦官たちを殺してやりたいと思った。願わくば、私がしたかった。私の指であなたを昂ぶらせてやりたかった」
「ひ、人でなし! わ、私はおまえを守るために、……お、おまえを……助けたいがためにしたというのに!」
 命を懸けて守ろうとしたしもべが、今そのとき見たことをにしてアベルを脅し、辱しめているのだ。
「ああ、そうだ。あなたは私を守るために木馬の上で生き恥を晒したのだ。誇り高いあなたが……潔癖なあなたが」
 うっとりと、ドミンゴは黄金の髪に顔をうずめた。
「この馬の名は、ドミンゴよ……。あの毒婦はそう木馬に名を付けた」
「ああ……」
 今やドミンゴとアベルの魂は、遠いグラリオン宮殿の奥室に飛んでいってしまったかのように、公爵もオルティスも無視して、残酷な追憶の遊戯にふけっているようだ。
「『ああ、ドミンゴ、なんてすごいんだ。お前のは最高だ』、そう言えとあの女はあなたに命じた……」
 オルティスはその場面を想像して発火しそうになった。
 命じる者は異教徒の〝女王〟であり、命じられた者は帝国の青年貴族。しかも絵の女はたしかに美女で、残忍卑劣な表情でありながらも、魅惑的であった。命じられた青年もまた絶世の美青年である。
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