黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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淫夢のなかで 一

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「ち、ちがう、……よ、よせ、やめろ!」
 アベルが焦って抗えば抗うほどに、ドミンゴの激情ははげしくなっていく。
「なにを違うとおっしゃるのです、アベル様! あなたはあの後宮で、私にさんざん見せつけてくれたではないですか!」
「な、なにを言っている?」
「事実だ。あなたは、あなたは……、女がまとう薄布を腰に巻いて、私を誘惑した!」
 ドミンゴの目や顔付きはもはや常人のものではない。オルティスは鼻白んだ。
 たしかにこの男は悪魔に憑りつかれている。それも彼に言わせれば、悪魔の名はアベルだというのかもしれない。
「あなたは、あんな子どものような宦官たちによって、後ろに連珠を入れられ、腰を振って悦んでいた」
「う、嘘だ!」
 アベルは頬を紅に染めて首を横に振った。
「あなたは、この細い、白い肉体で卵を飲み込み、それを生んで……宦官たちの目を楽しませ……」
「よ、よせ、それ以上言えば、許さぬぞ!」
 狂気の世界に足を踏み入れているドミンゴにとっては、もはやアベルの怒りは意味がなかった。
「アイーシャという妖婦やその侍女のまえで、言われるがままに、おのれを慰めてみせた!」
「やめろぉ!」
 真っ赤になったかと思えば真っ青になってアベルは叫んだ。
 激しく拒絶を見せるアベルの顔を見ているうちに、オルティスの頭のなかで、猥画の世界が光彩陸離こうさいりくりと展開する。
 絶世の美青年が、肌の色の違う男たちや女たちに嬲られ、いたぶられ、想像を絶するような辱しめを受け、その果てに快を得て、また泣くという、男たちの夢見る好色本の世界が脳裏でくりひろげられる。絵の美青年はアベルであり、逆にこの生きたアベルが絵のように現実ばなれしていく。
 夜の楽しみにこっそり淫らな夢を想い描くことなど、誰しもあるだろう。それは夢であり、絵空事であり、実際に誰かを傷つけるわけでもない、他愛なく罪のない愚かな幻想のはずである。
 だが今、異郷の地に捨ててきたはずの七色の夢が、現実に目の前で形をなしているのだ。
 オルティスはひたすら圧倒されていた。
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