黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
39 / 184

グラリオンの夜、ふたたび 八

しおりを挟む
「それで言われたとおりしたというのか、アルベニス伯爵ともあろう男が?」
「仕方なかったのです!」
 公爵の揶揄の言葉にかえすドミンゴの言葉には、真実の怒りが響き、これもオルティスにはふしぎな言動に思えた。
「召使の私を人質に取られて、殺すと脅され、あのときアベル様は泣く泣く、ええ、本当に泣きじゃくりながら、みずからのお手で……」
「異教徒どもらの前で、まっぱだかでしたのか? クククク」
 どこまでも残酷な公爵は問う。
「いえ、あのとき……薄紅か薄桃の布を巻いたままで、布越しにお手を動かされ」
 ドミンゴはやけにまじめに答えた。
 二人の男にはさまれるかたちのアベルの顔は、もはや生きた心地もなさそうだった。
「ほう? 時間はかかったか?」
「いえ、それほどには。すぐに……極められました」
 言うと同時にアベルの胸の上をまさぐっていたドミンゴの指に力がこもったのが、オルティスにもわかった。
「ああ!」
 ドミンゴの言葉にか、行為にか、もしくは両方にか、アベルは怒りと悲しみのこもったうめき声をはなつ。
「極められた瞬間……アベル様は、悦びの表情をされていた……」
「嘘だ……! 嘘を言うな!」
「いいえ、嘘ではありません。私はこの目で見ました。あのとき、あなたは、たしかに欲望を解放して、快感にひたっていられた」
 ドミンゴは当時のことを追想しているのか、目を閉じ、脳裏にアベルのあられもない痴態を思い浮かべているようだ。
「あのときの、あの一瞬の満ち足りた表情……。あれほど美しい顔を見たことはない。あなたの最も素晴らしい顔だった」
「よくも、よくもそんなことを!」
 アベルは悔しさに歯ぎしりしそうだ。
「そして、すぐに羞恥の感情をとりもどされ、また……泣かれた。ああ、あれは本当に、本当にすばらしい見物だった。見ていた私は生きていることを……この世に生まれてきたことを心から神に感謝しました」
「お、おまえは、なんという不道徳な……! 不謹慎なことを……!」
 怒りにわななくアベルを見返すドミンゴの目には、奇妙な強さが光っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

屈した少年は仲間の隣で絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...