黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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グラリオンの夜、ふたたび 三

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 くくくくく……。
 楽しくてたまらない、というふうに公爵が身をよじって笑う。
「俺が破落戸なら、その破落戸に触られて喜んでいるおまえはなんなのだ? ほら、ここを、こんなふうにして、」
「ああっ!」
 悲痛な声が天幕内に響く。
 この場を逃げだしたいような、いつまでも見ていたいような、相反する心の要求にオルティスはとまどった。
「ほうら、おまえは強情だが、身体は素直だな。見ろ、」
 アベルが悔しげに黄金の眉を寄せ、首を横に振る。
「ううっ、は、はなせ! さ、さわるな!」
 無念そうな喚き声が、聖堂で歌う天使の声のようにオルティスの鼓膜に染み込んでくる。
 伯爵の、男にしては細い喉のなかには水晶の鈴があるのではないかと疑うほどに、それは妙なる調べとしてオルティスの耳に入ってくるのだ。
「いい子だ。じっとしていろよ。今夜は、胸を徹底的に可愛がってやるからな。グラリオンの宦官どもによって、胸で達するようにまでなったと聞いたぞ。試してやろう」
 恐ろしい宣告を受けて、アベルは悲痛な表情になった。
「そ、そんな……! む、無理だ」
 めずらしくも弱気になったアベルの顎をとらえ、公爵がいとしげに親指でその唇を撫でる。まるで想い人に接するような仕草に、オルティスは意外な気がした。
 そして、ふと思う。
(公爵は、アルベニス伯爵が憎いのだろうか? その逆なのだろうか? いや、好きならこんな真似は絶対しないはずだ)
 悪友ブラスが以前言っていたことがある。戦で捕虜を拷問した兵士のなかには、その後、みょうな性癖に悩まされる者が稀にいると。
(なんでも安い街娼を買って、その女を殴らないと楽しめないのだと。ありゃ、病気だな)
 そいつは悪魔にとり憑かれているのだと、その話を聞いたとき、オルティスは本気で思った。
 今、目の前でアベルをいたぶって楽しんでいる公爵もまた、悪魔にとり憑かれているのだ。そうでなければ、こんな異常なことはできないはずだ。オルティスは確信した。
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