黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
29 / 184

禁じられた夜 八

しおりを挟む
(おい、よせよ、眠れなくなるだろう。はははは)
(こっちはもっとすごいぞ)
(おまえ、今夜は一晩中眠れなくなるぞ)
(ひひひひ)
 朋輩たちの下卑た笑い声が耳によみがえると同時にオルティスの脳裏に、あの晩見た絵が浮かびあがる。
 潔癖なオルティスには信じられないほどに猥褻な世界が、羊皮紙のうえに展開していた。紙をめくると同時に桃色の霞がそこにたちのぼるようだ。
 それは読む者の胸に、痛いほどの疼きを引き起こす禁断の書物である。
 そして、そのときからあの噂は聞いていた。
 あの頃、男たちは寄るとさわるとその話をしていた。
(もしや、なぁ、A伯爵というのは……あの方のことではないか?)
(滅多なことを言うな。あの方は女王の第一寵臣だぞ)
(だが、似ていないか、この絵? 黄金の髪に、碧の目)
(金髪碧眼は、異教徒らから見れば白人の代名詞なのだろう)
 そう言ったのはオルティスだった。
 遠目にしか見たことのないアベルの高貴な美貌に、ほのかな憧憬をいだいていたオルティスには、猥書猥画に描かれている人物がアベルだなどと信じられなかった。信じてはいけないと思っていた。
(それにしても、凄まじいな、この絵。ああ、たまらん!)
『A伯爵調教日誌』という、いかにもいかがわしい絵巻物語が巷で知られるようになるや、一気に流行はやりだし、貴賤を問わず男たちを夢中にさせた。女にも読者は多いという。字が読める上流、中流の者はもちろん、文盲でも絵だけを楽しむことができるので、ほとんどの国民が知っているといっても過言ではない。
 教養ある貴族や慎みぶかい貴婦人も、こっそり隠れて読んでいるというし、おどろいたことに聖職者でもひそかに所有している者もいるという。
 わずか短期間でこれほど流行ったのは、やはり絵も文も強烈で、衝撃的だからだろう。一目見るや、忘れられない作品である。さらに一読すれば、その夜はたしかに眠ることができなくなるほどに過激で淫靡、かつ官能的な内容だった。
 作品が知られるにしたがって、あまりにも精巧な描写に、これは現実の話ではないかという噂が出回りはじめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...