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禁じられた夜 八
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(おい、よせよ、眠れなくなるだろう。はははは)
(こっちはもっとすごいぞ)
(おまえ、今夜は一晩中眠れなくなるぞ)
(ひひひひ)
朋輩たちの下卑た笑い声が耳によみがえると同時にオルティスの脳裏に、あの晩見た絵が浮かびあがる。
潔癖なオルティスには信じられないほどに猥褻な世界が、羊皮紙のうえに展開していた。紙をめくると同時に桃色の霞がそこにたちのぼるようだ。
それは読む者の胸に、痛いほどの疼きを引き起こす禁断の書物である。
そして、そのときからあの噂は聞いていた。
あの頃、男たちは寄るとさわるとその話をしていた。
(もしや、なぁ、A伯爵というのは……あの方のことではないか?)
(滅多なことを言うな。あの方は女王の第一寵臣だぞ)
(だが、似ていないか、この絵? 黄金の髪に、碧の目)
(金髪碧眼は、異教徒らから見れば白人の代名詞なのだろう)
そう言ったのはオルティスだった。
遠目にしか見たことのないアベルの高貴な美貌に、ほのかな憧憬をいだいていたオルティスには、猥書猥画に描かれている人物がアベルだなどと信じられなかった。信じてはいけないと思っていた。
(それにしても、凄まじいな、この絵。ああ、たまらん!)
『A伯爵調教日誌』という、いかにもいかがわしい絵巻物語が巷で知られるようになるや、一気に流行りだし、貴賤を問わず男たちを夢中にさせた。女にも読者は多いという。字が読める上流、中流の者はもちろん、文盲でも絵だけを楽しむことができるので、ほとんどの国民が知っているといっても過言ではない。
教養ある貴族や慎みぶかい貴婦人も、こっそり隠れて読んでいるというし、おどろいたことに聖職者でもひそかに所有している者もいるという。
わずか短期間でこれほど流行ったのは、やはり絵も文も強烈で、衝撃的だからだろう。一目見るや、忘れられない作品である。さらに一読すれば、その夜はたしかに眠ることができなくなるほどに過激で淫靡、かつ官能的な内容だった。
作品が知られるにしたがって、あまりにも精巧な描写に、これは現実の話ではないかという噂が出回りはじめた。
(こっちはもっとすごいぞ)
(おまえ、今夜は一晩中眠れなくなるぞ)
(ひひひひ)
朋輩たちの下卑た笑い声が耳によみがえると同時にオルティスの脳裏に、あの晩見た絵が浮かびあがる。
潔癖なオルティスには信じられないほどに猥褻な世界が、羊皮紙のうえに展開していた。紙をめくると同時に桃色の霞がそこにたちのぼるようだ。
それは読む者の胸に、痛いほどの疼きを引き起こす禁断の書物である。
そして、そのときからあの噂は聞いていた。
あの頃、男たちは寄るとさわるとその話をしていた。
(もしや、なぁ、A伯爵というのは……あの方のことではないか?)
(滅多なことを言うな。あの方は女王の第一寵臣だぞ)
(だが、似ていないか、この絵? 黄金の髪に、碧の目)
(金髪碧眼は、異教徒らから見れば白人の代名詞なのだろう)
そう言ったのはオルティスだった。
遠目にしか見たことのないアベルの高貴な美貌に、ほのかな憧憬をいだいていたオルティスには、猥書猥画に描かれている人物がアベルだなどと信じられなかった。信じてはいけないと思っていた。
(それにしても、凄まじいな、この絵。ああ、たまらん!)
『A伯爵調教日誌』という、いかにもいかがわしい絵巻物語が巷で知られるようになるや、一気に流行りだし、貴賤を問わず男たちを夢中にさせた。女にも読者は多いという。字が読める上流、中流の者はもちろん、文盲でも絵だけを楽しむことができるので、ほとんどの国民が知っているといっても過言ではない。
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