黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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禁じられた夜 三

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 感情をたかぶらせたアベルは碧の瞳を赤くうるませ、金色の眉を吊り上げてさけぶ。
 好色本に出てくる悪漢におそわれる哀れな姫君そのものだ。
「せっかくきれいにしてやろうとしているのに、困ったじゃじゃ馬だな」
 そして公爵は絵に描いたような悪役だった。
 横顔はやはり整っており、大貴族としての気品も備えているというのに、今の公爵はおそろしく下品で低劣である。やや露悪的にすらオルティスは感じる。
「しかたないな。ドミンゴ、おまえのご主人をおさえていろ」
「え……?」
 あわてた顔をするドミンゴに、口早に公爵は命令した。
「何をしている? おまえの主人があらがわないように抑えこんでいろ」
 アベルの白い肌が氷のように色をなくした。
「く、来るな!」
 次の瞬間には烈火のごとく赤く頬を燃やして、おそるおそる手を伸ばしてきたドミンゴに向かって叫ぶ。
「私のそばに来るな、下郎! 裏切り者」
 なまじ美しい顔だけに、怒りにふるえる様は恐ろしく、迫力がある。
 もしあんな目を向けられのが自分なら、胸が張り裂けてしまうかもしれない、とオルティスが思うほどに、その目も顔も凛冽の気迫にみなぎっている。
「お、お許しください、アベル様……」
 おどおどと許しを乞いながらも、下僕の目には暗い欲情が燃えていることにオルティスは気づいた。
「さ、さわるな!」
 いくらアベルが叫んだところで、今のドミンゴの本当の主は公爵であり、アベルは罪人の身である。
 しかも一日じゅう縛られ、馬に不自然な姿勢で乗せられ、人々の好奇の目にさらされていたアベルは心身ともにひどく疲弊していた。
 食事もろくにとっていない。時折り、オルティスやドミンゴが飲み物を強引に口に入れてやった以外はほとんどなにも食べていない。今のアベルは疲れ切って非力だった。
「い、いやだ、といっている……!」
 手足もきつく縛られていたせいで、思うように動かないのだろう。一方、ドミンゴの方は体格は大きく、力仕事にも慣れているようでかすかに見えた腕にはかなり筋肉もついているようだ。顔はやつれてはいるが、体力の差では今のアベルを圧倒的に上回っていた。
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