20 / 184
黒い轍 十
しおりを挟む
出立前にバルトラ公爵を睨みつけた碧玉の瞳は憎悪に燃えて、今オルティスを睨みつけてきている。
(こんなこと、してはいけない……)
理性はそう訴えるのに、手は本能にしたがって動いてしまう。
自分の内に、卑しい獣がひそんでいたことをオルティスは今はじめて知った。
「伯爵……」
オルティスの頬も上気していた。
「ん……、んぐ」
アベルが悔しそうに顔をゆがめ、首を横に振る。
離せ! 触るな! と表情が伝えてくるが、オルティスは止められない。
そして、内心あらためて感嘆した。
粗末な衣に身をつつんでいても、辱しめられ貶められていても、この生まれながらの貴人は、美しいのだ。
そろそろ傾きかけている陽光を、黄金の巻き毛が吸い込む。太陽の光を独り占めしているほどにアベルは眩しい。
(こんな、こんな凄い人が、……今、俺の手で……悦んでいるのだ)
オルティスもまた激しく興奮した。
性的興奮もさることながら、国一番の麗人を思うがままにできるこの状況に有頂天になりかけていた。
指に力を込めると、アベルはいっそう悔しげな顔になり、眉をしかめて、逃れるように目を閉じる。
そうはさせじと、オルティスは指の動きを変えてみる。
「ふぅ……」
アベルが首をもたげ、背を伸ばし、それからやるせなさそうに身をよじる。これほど浅ましく淫らな姿態でありながら、それでいて気品があることに、オルティスは内心首をひねった。
馬の手綱を右手だけで器用に取りながら、オルティスはさらにアベルの身体に触れようとした。
ドミンゴが自分を見ているのを感じる。
恥じ入るよりも、見せつけてやりたいという異様な気持ちになってくる。
だが、次の瞬間、それまで照っていた太陽が曇った。刹那、オルティスは息を飲んだ。
(俺は……なにをしているのだ?)
自分が異常なことをしていることに気づいたオルティスは、手の動きを止めた。
(どうかしてしまっている、俺は……)
(こんなこと、してはいけない……)
理性はそう訴えるのに、手は本能にしたがって動いてしまう。
自分の内に、卑しい獣がひそんでいたことをオルティスは今はじめて知った。
「伯爵……」
オルティスの頬も上気していた。
「ん……、んぐ」
アベルが悔しそうに顔をゆがめ、首を横に振る。
離せ! 触るな! と表情が伝えてくるが、オルティスは止められない。
そして、内心あらためて感嘆した。
粗末な衣に身をつつんでいても、辱しめられ貶められていても、この生まれながらの貴人は、美しいのだ。
そろそろ傾きかけている陽光を、黄金の巻き毛が吸い込む。太陽の光を独り占めしているほどにアベルは眩しい。
(こんな、こんな凄い人が、……今、俺の手で……悦んでいるのだ)
オルティスもまた激しく興奮した。
性的興奮もさることながら、国一番の麗人を思うがままにできるこの状況に有頂天になりかけていた。
指に力を込めると、アベルはいっそう悔しげな顔になり、眉をしかめて、逃れるように目を閉じる。
そうはさせじと、オルティスは指の動きを変えてみる。
「ふぅ……」
アベルが首をもたげ、背を伸ばし、それからやるせなさそうに身をよじる。これほど浅ましく淫らな姿態でありながら、それでいて気品があることに、オルティスは内心首をひねった。
馬の手綱を右手だけで器用に取りながら、オルティスはさらにアベルの身体に触れようとした。
ドミンゴが自分を見ているのを感じる。
恥じ入るよりも、見せつけてやりたいという異様な気持ちになってくる。
だが、次の瞬間、それまで照っていた太陽が曇った。刹那、オルティスは息を飲んだ。
(俺は……なにをしているのだ?)
自分が異常なことをしていることに気づいたオルティスは、手の動きを止めた。
(どうかしてしまっている、俺は……)
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる