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黒い轍 六
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馬を近づけて、懐から取り出した自分の手拭をアベルの額に当てようとした。
「んっ……!」
アベルは驚いたように一瞬身をすくませたが、オルティスのしようとしていることを悟って、寄せていた眉をかすかに開いた。
オルティスは用心深く自分の馬の手綱を引いて間合いを調節し、丁寧に囚われの貴人の額を拭いた。
(ああ……)
オルティスは感嘆せずにいられない。
こうして間近で見ると、やはりアベルは美しい。
公爵のように身を覆う高価な鎧や絹の美衣がなくとも、飾る宝石のひとつもなくとも、それでも彼の麗貌は見る者の心をさわがせる。
しっとり汗に濡れた肌はどんな絹よりなめらかで、戒められた細い身体こそは生きた宝玉だった。
そうだ。アベルの顔と身体は国宝といっても過言ではない。
オルティスは、宮廷詩人がアベルのことを〝帝国の白薔薇〟と詠ったことを思い出した。
帝国の白薔薇は帝国の花園で咲かねばならない。
理由はどうあれ、このような人を異郷に残すことなどできない。痛ましくは思いながらも、オルティスはこうしてアベルを祖国へ連れ戻せることに関しては良かったのだと思う。
グラリオンという野蛮な未開の地から、帝国の貴重な宝石をうばいかえしあるべき場所に戻せるのだ。複雑ではあるが、少し嬉しく思う。
アベルの頬は、ますます赤みを帯びてきた。
「……伯爵、苦しいですか?」
「ん……。んん」
かすかに喘ぐような仕草をするアベルを見ていると、オルティスまで堪らない気持ちになってくる。
同情もあるが、それ以上に熱く激しい感情が、胸の奥底から湯水のごとくわいてくる。
こころもちアベルが腰を揺らした。縄がきしむ。
盛りあがったような臀部が、震えている。
「伯爵……。縄がきついのですか?」
そうでないことは、若いオルティスも本能で気づいた。いや、若いオルティスだからこそ気づいた。
「んっ……!」
アベルは驚いたように一瞬身をすくませたが、オルティスのしようとしていることを悟って、寄せていた眉をかすかに開いた。
オルティスは用心深く自分の馬の手綱を引いて間合いを調節し、丁寧に囚われの貴人の額を拭いた。
(ああ……)
オルティスは感嘆せずにいられない。
こうして間近で見ると、やはりアベルは美しい。
公爵のように身を覆う高価な鎧や絹の美衣がなくとも、飾る宝石のひとつもなくとも、それでも彼の麗貌は見る者の心をさわがせる。
しっとり汗に濡れた肌はどんな絹よりなめらかで、戒められた細い身体こそは生きた宝玉だった。
そうだ。アベルの顔と身体は国宝といっても過言ではない。
オルティスは、宮廷詩人がアベルのことを〝帝国の白薔薇〟と詠ったことを思い出した。
帝国の白薔薇は帝国の花園で咲かねばならない。
理由はどうあれ、このような人を異郷に残すことなどできない。痛ましくは思いながらも、オルティスはこうしてアベルを祖国へ連れ戻せることに関しては良かったのだと思う。
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