黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
16 / 184

黒い轍 六

しおりを挟む
 馬を近づけて、懐から取り出した自分の手拭をアベルの額に当てようとした。
「んっ……!」
 アベルは驚いたように一瞬身をすくませたが、オルティスのしようとしていることを悟って、寄せていた眉をかすかに開いた。
 オルティスは用心深く自分の馬の手綱を引いて間合いを調節し、丁寧に囚われの貴人の額を拭いた。
(ああ……)
 オルティスは感嘆せずにいられない。
 こうして間近で見ると、やはりアベルは美しい。
 公爵のように身を覆う高価な鎧や絹の美衣がなくとも、飾る宝石のひとつもなくとも、それでも彼の麗貌は見る者の心をさわがせる。
 しっとり汗に濡れた肌はどんな絹よりなめらかで、戒められた細い身体こそは生きた宝玉だった。
 そうだ。アベルの顔と身体は国宝といっても過言ではない。
 オルティスは、宮廷詩人がアベルのことを〝帝国の白薔薇〟と詠ったことを思い出した。
 帝国の白薔薇は帝国の花園で咲かねばならない。
 理由はどうあれ、このような人を異郷に残すことなどできない。痛ましくは思いながらも、オルティスはこうしてアベルを祖国へ連れ戻せることに関しては良かったのだと思う。
 グラリオンという野蛮な未開の地から、帝国の貴重な宝石をうばいかえしあるべき場所に戻せるのだ。複雑ではあるが、少し嬉しく思う。 
 アベルの頬は、ますます赤みを帯びてきた。
「……伯爵、苦しいですか?」
「ん……。んん」
 かすかに喘ぐような仕草をするアベルを見ていると、オルティスまで堪らない気持ちになってくる。
 同情もあるが、それ以上に熱く激しい感情が、胸の奥底から湯水のごとくわいてくる。
 こころもちアベルが腰を揺らした。縄がきしむ。
 盛りあがったような臀部が、震えている。
「伯爵……。縄がきついのですか?」
 そうでないことは、若いオルティスも本能で気づいた。いや、若いオルティスだからこそ気づいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...