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黒い轍 四
しおりを挟む太陽に照らされた下界という舞台では、異様な場面が展開していた。
延々とつづく凱旋軍の甲冑や楯、槍、刀剣はにぶく銀色に光り、帝国の威を異郷の地に振りまく。
ものめずらしげに見送るグラリオンの民衆の目は、恐怖といくばくかの好奇に満ちている。沿道に並ぶ人々は、すでに前王が廃位され、グラリオンが異国の軍門に下ったことは知らされていたので、これから自分たちの新たな主として宗主国となる国の軍隊に複雑な視線をおくっている。目には恨み憎しみもふくまれているが、多くは諦めを示していた。
見送る人たちは大半が男であるが、顔を布でかくした女たちもいる。誰しも、一様に、隊列の真ん中あたりにいる黒い馬を見ると、ふしぎそうに、馬上の虜囚を見た。
最初はてっきり捕虜として送られるグラリオンの貴族か要人かと思っていた人々も、馬の上のあわれな囚人が異国人だとわかると、好奇心をかくせないように目を凝らす。
「あれは、いったい誰だ?」
「もしかしたら、噂に聞いた例の……帝国貴族じゃないか? ほら、ディオ王の後宮に入ったという」
アベルは帝国がおくった間諜だとグラリオンでは噂されていた。
卑劣な帝国政府が、美貌の使者をつかって、王をたぶらかし、骨抜きにしたのだ。ためにグラリオンは敗れたのだという、真実ではないが、それでいて若干否定できない部分もふくまれた噂がグラリオンの王都に流れており、その噂は辺境の村にもわずか数日で届いていた。
「ああ、女王の男妾か」
吐き捨てるような声。
「だが、なぜ帝国人があんな目に?」
「なんでも、あいつの方もディオ王に夢中になってしまったらしく、祖国を裏切ったそうだよ。王のもとへ逃亡しようとしたとか」
「よっぽど王様……、前の王様はうまかったっていうことだな」
卑しい笑い声がひびく。
「見てみろ、色っぽい足をしている」
「本当に色が白いな。女のような足じゃないか」
「なんだか……やけに、いやらしい男だな」
体内に責め具を入れられた状態のアベルは、時がたつにつれ、反応してしまう身体をおさえきれなくなっていた。
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