黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
4 / 184

白昼の虜囚 三

しおりを挟む
 祖国の宮殿や社交界では美貌で知られた伯爵だが、これほど近くで見たのは、思えば初めてだ。
(女人でも、これほど美しい人はいないだろうな……)
 オルティスには親が決めた許嫁がおり、祖国の都で彼の帰りを待ちわびている。
 彼より三つほど歳下の十七歳で、祖国を出るまでは、充分可愛らしく美しい娘だと思っていたが、今その想いはこのグラリオンの太陽の下の一粒の氷のかけらのように、はかなく消えてしまった。そんな自分を戒める声もない。
 噂にたがわず、いや噂以上の伯爵の麗貌れいぼうに、目をうばわれずにいられないのだ。オルティスは頬が熱くなるのを感じた。
 そんなオルティスの若者らしい初々しい反応を皮肉な目つきで見ながら、公爵は冷たい声で告げてきた。
「安心しろ、落ちないようにちゃんと縛ってやる。これでな」
 にんまりと笑ってバルトラ公爵が見せたのは、それこそ罪人をしばる荒縄だ。
「あ、あの……」
 オルティスは頬が上気するのを自覚した。背がぞくぞくする。腰から背骨、頭の頂点へと、小さないかづちが走りぬけたようだ。
「それは、あの……」
 オルティスはなんと言ってよいかわからず、魚のように口をあけたり閉じたりしてしまう。我ながら不様だ。
「本当は、あまり肌を傷つけたくないのだが、なんといってもえある凱旋部隊の目玉だからな、伯爵は。これでしっかり縛って民に見せつけてやるぞ」
「そ、それは……」
 オルティスの背に汗が走った。
 バルトラ公爵は本気で言っているのだろうか。悪い冗談ではないだろうかと疑いたくなる。
 戦争に勝利した軍隊が、捕虜を縛りあげて戦利品のように誇示しながら行進する野蛮な習慣は、たしかに帝国にもある。
 だがアベル=アルベニス伯爵は、まがりなりにも貴族で、女王の信頼もあついと聞く。たしかにここ最近、奇妙な噂も聞くが、だがけっしてそんなふうに扱っていい相手ではないはずだ。
 なによりもオルティスがバルトラ公爵の言葉に頷けないのは……、
 オルティスはあらためて伯爵を見た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

屈した少年は仲間の隣で絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...