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白昼の虜囚 一
しおりを挟む「オルティス隊長、出立の準備はできたか?」
エゴイの問いに、若い声がはっきりと響いた。
「はい、公爵。そちらの……方はどうなさいますか? 一応馬車の用意はございますが」
守護隊の隊長オルティスが、おうかがいをたてるように、慎重に言葉をえらびながら問う。
帝国の軍人である彼は、この状況にとまどっているのだ。
グラリオンへ使者として赴いたアベル=アルベニス伯爵が、帝国軍とともに帰国するのは良いとして、どうもここ数日、彼の耳へと伝わる話では訝しいことが多い。
驚いたことに、帰国前になって、伯爵が逃亡をくわだてたという。それも、理由は、異教徒の廃王ディオのもとへ行こうとしたとか。
さらに、嘘か本当か……同僚や部下たちの間でさかんに取り交わされる、あの噂……。
あろうことか、アルベニス伯爵がディオ王の褥に侍ったとか……。なんでも、ディオ王の結婚式に女装してあらわれ、バルトラ公爵や、同行していたアビラ子爵が仰天するほど、正視に堪えぬ醜態をくりひろげたとか……。到底信じられない話だ。
それ以前にも、祖国を出るまえから、アルベニス伯爵に関しては、オルティスも奇妙な噂をよく聞いた。敵の手にはまり、ひどい侮辱を受けたとか。
戦となれば、敗者となったものが敵によって手酷い辱しめを受ける話はよくある。それに関しては気の毒なことだと思うが、聞いた噂によれば、アルベニス伯爵は異国の邪宗徒の淫らな手管によって、貴族としても軍人としても誇りをなくし、とんでもない痴態をくりひろげたとか……。
痛ましいとは思うが、そんなことが本当にあったのなら、アルベニス伯爵は帰国して良いのだろうか。生真面目なオルティスは悩んでしまった。
伯爵はこのまま何ごともなかったかのような顔で、女王の御前に顔を出してよいものだろうか。
酷いようだが、軍人ならば――禁忌ではあるが――自害したほうが伯爵自身にとっても良いのではないか、と若い彼は思ってしまう。
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