夏目荘の人々

ぺっこ

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ぽっちゃり女子×犬系男子19

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「ちょっと山岡!花火こっち向けないでよ危ないから!」


「悪い!あんまり久々でやり方が…!」


あれからBBQの食材はきれいになくなり、私達は河原の方へ移動して花火をすることになった。


それぞれがはしゃぐ中、


「花、こっちこいよ。」


小型の打ち上げ花火を地面にセットしている嶺ニくんに呼ばれた。


嶺ニくんの隣にかがむと、


「俺、火付けるから花これ持っといて。」


…怖いから嫌だなあという本音は隠しつつ、何も言わずに言われた通りに打ち上げ花火を持つ。


「せーので花火に火を付けるから、花、そん時に手離せよ?」


きちんと説明してくれた嶺ニくんに安心して頷く。


   「いくぞ、せーの!」


嶺ニくんの掛け声と共に立て掛けていた花火を離すと、キラキラとした光が辺り一面に広がった。


…わあ


「きれい…」


一瞬で消え去った光の後に残る火薬の匂い。


なんだかきゅっと胸が苦しくなる匂いだ。


ぼんやりと花火の名残を眺めていると、嶺ニくんに話しかけられた。


「花、次これ。」


そう言って渡されたのは線香花火だ。


その場にしゃがんだ嶺ニくんにならって、私も隣にしゃがみこむ。


チリチリと光る小さな光。


2人して無言で花火を眺めていると、おもむろに嶺ニくんが口を開いた。


「花は楠田とどういう関係だ?」


楠田という名前に体がびくりと動揺してしまう。


「え、どういう関係って…友達だよ。」


「でも、楠田は花のこと好きだよな?」


「えええ!?…うわっ!」


びっくりしすぎて思わず線香花火を落としてしまった。


「ははは、何だその反応。告白でもされたか?」


いつもみたい小バカにした感じもなく、鋭さもなく、ただ静かに笑う嶺ニくん。


違和感を覚えながらもその言葉にうろたえてしまう。


「へえ!?」


なんなんだ嶺ニくんは。勘が良すぎる。


「…付き合ってみれば?」


至極まじめな声音で、嶺ニくんはそう言った。


必要最低限の外灯と、頼りない花火の光だけでは嶺ニくんの表情を上手く読み取ることができない。


「…どうして?」


思わずそう尋ねて嶺ニくんを見ると、彼も私の方を見た。


「まず、いいカップルになると思う…」


そう言ったあと、何事も迷わず発言する嶺ニくんにとっては珍しく、私から視線をそらすと、いいよどむように口を閉じた。


「陽介とマリはもうすぐ半年記念なんだ。」


「え…?」


思いもしなかった話題にはて、と首をかしげる。


そっか、みんなでお祝いする?


と聞こうと思ったがそういう雰囲気ではないと分かる。


「…マリには、マリが幸せになるには陽介が必要なんだ。」


嶺ニくんがそう言った瞬間、誰かが打ち上げ花火をあげたのか、周りが明るくなった。


「…っ!」


私をいつも真っ直ぐに見つめるガラス玉のような美しい瞳はどこか不安げに揺れていた。


『マリが幸せになるには陽介が必要なんだ。』


もしかして…


「もしかして嶺ニくん…マリ「それ以上言ったら突き飛ばすからな。」」


その恐ろしい言葉に私はすぐ口を閉ざした。


…嶺ニくんはマリちゃんが好きなのか。


変わりに心の中でそっとつぶやく。


『陽介にはマリがいるんだよ。分かっててやってんのか?お?』


それならこの間言われたその言葉や、以前から冷たかった嶺ニくんに納得がいく。


好きな人の好きな人と、ひとつ屋根の下で同い年の異性が住んでいるとなったらそりゃ嫌だろう…例え私であっても。


しかも陽介くんは誰にでも優しいし、私自身も陽介くんと仲良くしているという自覚はある。


私だったら好きな人の好きな人が他の異性と仲良くしてたら私にもちょっとはチャンスあるのかなって思ってしまうけど…


それでもマリちゃんの幸せを願う嶺ニくんって…


「…嶺ニくんは、やっぱり優しいね。」


ぼそりと呟いた私の言葉に、嶺ニくんの肩がピクリと動いたのが分かった。


今まで嶺ニくんに対しては、「怖い」が大半を占めていたけど、今、それがスッと消えた。


それと同時に複雑な気持ちが心に大きく広がった。


嶺ニくんは遠回しに私が陽介くんと距離を取ることを望んでいるのだ。


私に知られるのは不本意だったであろう自分の気持ちを表に出してまで。


私達を除く5人で打ち上げ花火をしている彼らに目を向ける。


「わー!」


と嬉しそうに声をあげて花火を見つめる陽介くん。


そしてそんな陽介くんの隣で彼を優しく見つめるマリちゃん。


間違いなくお似合いのカップルだ。


見た目だけじゃなく、優しくて気さくな性格も似ている。






陽介くんに出会って、私は彼に恋をした。


陽介くんを見ると心が踊った。


話せるだけで一日中幸せだった。


そのうち一緒に住んでいるからそれが普通になって、一緒に料理を作るようになったり、部屋に彼が遊びにくるようになったり…


一緒に過ごす時間が濃くなるにつれて、私の中の気持ちも、マリちゃんに対する嫉妬心も大きくなった。


そうだな…


潮時かもしれない。


別に陽介くんに好きになってもらうために積極的に行動もしていない。


もちろん告白だってしていない。


でも、陽介くんとマリちゃんの幸せに邪魔になるのなら、嶺ニくんがこれ以上傷付かないのなら。


気持ちを消すことも簡単だろう。



誰か一人の特別になりたい。


いつも思っている。


でもそれ以上に、誰にも嫌われたくない。傷付きたくない。


だから頑張らない。可能性など信じない。


「私、諦めるよ。」


小さな小さな声が、私の口から滑り落ちる。


もう一度手に取った線香花火は、光が灯ると一瞬にして落ちて、消えた。
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