夏目荘の人々

ぺっこ

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ぽっちゃり女子×犬系男子18

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「わー、このお肉美味しいねえ!」


「だよなー!」


あれからしばらくして、なんとなくそれぞれのBBQの役割が決まってきた。


嶺ニくんは完全なる食べる係。


千紗は野菜を切って用意してくれいる。


楠田くんは黙々と火を調節したり、ゴミを拾ったりと気を配ってくれている。


陽介くんとマリちゃんは嶺ニくんの側に行ったり私達の側に来たり…


そして私と山岡くんは食材を焼く係だ。


そして時々つまみ食いする。


「えーっと、楠田くんだっけ?」


山岡くんは側を通った楠田くんに話しかける。


「ああ。よろしく、山岡くん。」


いつも通り、真顔だけどまっすぐ相手の顔を見て楠田くんはそう答えた。


そんな楠田くんに一瞬きょとんとした山岡くんだけど、


「はっはははは!」


すぐに大きな笑い声を上げた。


「この前のレストランで働いてたよな。山岡でいいよ。下の名前はなんて言うの?」


人懐っこく話しかけてくる山岡くんに戸惑いを見せながらも


「幸生(こうせい)」


と答える楠田くん。


「いい名前だな!幸生って呼んでいいか?」


「…うん。」


すごいなー。山岡くん。


全然壁がなくて、親切で、誰とでもすぐ仲良くなれる。


さすが陽介くんの友達だなあ。


コミュニケーション能力が高くて優しい。


「おい花、肉はまだか?」


…嶺ニくんはちよっと特別な気がするけど…


と、ふと星のキャンディをもらったことを思い出した。


「はい、お肉焼けてるよー!あと野菜も入れてもいい?」


そう尋ねる私に嫌な顔をしつつも頷く嶺ニくん。


「ありがとう。あと、星のキャンディもありがとう。」


美味しかったです。


そう言って笑った私に対して、意外だったのか、嶺ニくんはキョロキョロと視線を迷わせたあと、恥ずかしそうに顔を背けた。


「っ別に。」


嶺ニくんは特別だけど、でもやっぱり優しいな。


ふふふ、と笑うと


「なに笑ってんだよ。」


キッ!と私を睨み付けて、お皿を受け取った嶺ニくんは


「おれ、ピーマン嫌い!食べるけどな!」


まるで小さな子供のようなことを言って自分の席に帰っていった。


 「嶺ニは本当子供だなあ…」


しみじみと呟いた山岡くんに思わず声を出して笑ってしまう。


「そういえば幸生、色々してくれて、全然食べてないだろ?」


そう言われた楠田くんは遠慮がちに頷く。


「あ!こっちのお肉、たくさん焼けてるよ!」


私が急いでお皿にお肉と野菜をできるだけ盛って楠田くんに手渡そうとすると、楠田くんは何かを考えるようにじっと立ち止まっていた。


そして何を思ったのか静かに近寄ってきて私の前で口を開けた。


…え?


食べさせろと…?


確かに楠田くんの両手にはトングとゴミ袋があるけれども…!


最近どこかでも経験したことのあるこの出来事に既視感を覚える。


ちらりと楠田くんを見ると、その頬は赤く染まっている。


…自分でやっておいて!


やっぱり楠田くんはかわいい。


そんな彼を見ていると何かが吹っ切れた。


「はい、熱いからふーふーして食べてね。」


そう言って楠田くんの口元にお肉を近付けると、楠田くんはさらに顔を赤くした。


そして小さめの口を思いっきり開けるとお肉を一口できれいに食べる。


「おいしい?」


口をもぐもぐとさせながら頷く楠田くんは普段より幼く見えてかわいい。


…なんだか楽しくなってきた。


「次は…たまねぎ食べる?」


うん、と頷く楠田くんに自然と笑みがこぼれる。


パクパクと食べてくれる楠田くんが嬉しくて、私はどんどん彼の口にお肉や野菜を入れていく。


「た、高瀬さん、一旦ストップでお願いします…」


もぐもぐと動く口を押さえて手をあげる楠田くんにはっとする。


「ご、ごめんね!なんだか楽しくなってきちゃって…」


気付かない間に無理をさせてしまったようだ。


ああ…だから私ってダメなんだよ。


暗い気持ちになりながら、お肉を焼く作業を再開する。


「…高瀬さん?」


楠田くんの声に顔をあげると、彼は微笑んで私の口元にお肉を持ってきていた。


「え…?」


「はい、あーん」


さっきの仕返しだとばかりに口の前からお肉を動かさない楠田くん。


いやいやいや!誠に自分勝手ですけど、あーんやるのは好きだけどしてもらうのは恥ずかしすぎて無理…!


渾身の無理!という気持ちを込めてぶんぶんを首を振る私を見て、楠田くんは楽しそうに笑った。





*
「え、花ちゃんと幸生って付き合ってんの?」


「付き合ってないわよ、まだ。」


「まだ?」


「楠田くんがふっきれたからね、これからはどうなるか分からないよねー。」


「…へえ。」


千紗と山岡くんがそんな話をしてることも知らず、



「マリ…」


「んー?」


「今日の帰り、話があるんだけど…」


少しずつ変わり出したそれぞれの関係にも気付かず、私達の笑い声は秋空に吸い込まれていった。
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