夏目荘の人々

ぺっこ

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ぽっちゃり女子×犬系男子12

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「…」


「…」


「…」


ああああ気まずい!


あれから私たち3人は無言でクレープ屋さんへと向かっている。


多分5分もたっていないはずだ。


でも…!


この時間が!地獄のように長い!


本当はあの後すぐに別れたかったけど、美々ちゃんとの約束が私を踏ん張らせてくれた。


おそるおそる、楠田くんを盗み見る。


相変わらず姿勢良く歩くなあ。


楠田くんはとても優しい。人が嫌がることは絶対に言わないし、しない。


話す時はちゃんと私の目を見てくれる。


課題も提出3日前には必ず終わってるし(私は前日にやって後悔するタイプ)、授業態度も真面目でスマホに触ることすらしない。


実はできてる人が少ない、当たり前と思われていることを当たり前のようにできる人。


そして今日知った家族を大切にしているということ。


…素敵な人だ。いや、素敵すぎる。


そんな人が私を好き?


思わず首をかしげてしまう。


好きっていつから…


そんなことをもんもんと考えていると


「あ、クレープ屋さん!」


美々ちゃんが弾んだ声をあげた。


…とりあえず今はこの時間を楽しもう。


 私はぶんぶんと頭をふって美々ちゃんに笑顔を返した。





それなら、私たちは注文したクレープを受け取り、空いているベンチに座った。


「わー、美味しい!」


口の周りにたくさんクリームをつけて微笑む美々ちゃんがかわいくて思わず笑みがこぼれる。


「美々、クリームがついてるぞ。」


苦笑しながらティッシュで美々ちゃんの口をふいてあげている楠田くん。


…でも


「ふふ。」


思わず吹き出してしまった私を楠田くんと美々ちゃんは不思議そうにながめる。


「ふふふ。楠田くんもクリームついてるよ。」


手が自然に楠田くんの口元に伸び、クリームをぬぐう。


楠田くんと美々ちゃん、やっぱり兄妹だな。


なんてのんきに思いながら自分のクレープを食べ続けて、ふと手が止まる。


え、今私何した?


…なんか、とんでもなく恥ずかしいことしちゃった?


さっきからやけに静かな2人のほうをおそるおそる見ると、これでもかというほど顔を真っ赤にさせた楠田くんと、そんな彼を不思議そうに覗き込んでいる美々ちゃんがいた。


…私は何を?


「あのっ、えーっと…!」


あわてて弁解しようとするも言葉が出てこない。


今さら楠田くんの頬に触れた人差し指がじんっと熱くなる。


「…えーっと!」


もう!私のばか!変態!


「そういえば、さっき千紗から連絡があって!…戻らないと!」


ごめん美々ちゃん!
ごめん楠田くん!


2人の顔を見れないまま、バレバレの嘘をついた私はそのまま走り出した。


走り始めて1分もたたないうちに、私の息は切れ始め、限界を迎えた。


体をフェンスにもたれかけ、私は空を見上げる。


私の好きな人は陽介くん。


それは1年前から変わらない。


なのに…


いつも隙のない楠田くんの無防備な姿にちょっときゅんとしてしまったなんて、誰にも言えない。


「僕、高瀬さんが好きなんだ。」


彼の真剣な瞳が、頭から離れない。


…嬉しくない、わけがない。


好きな人がいるのに、他の人からの告白に舞い上がっている。


これだから私は。


喜んじゃだめよ。


どうせ楠田くんの気の迷い。


はあ。


人の気持ちを心の中で踏みつける私が、それでも嬉しいと喜ぶ私が、好きな人ではなく、違う人の言葉で喜ぶ私が、


なんだかとても汚い人間に思えた。

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