死神になった日

いとま

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3日目

精神異常

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 偶に来る残党を迎撃しながら包囲を続けていると、程なくして洞窟から、試験官が数名の男女を連れて出てくる。

「終わったぞ。怪我人はいないか?」

 試験官は受験者達の方を確認する。
 受験者達の周りには、返り討ちにした残党の死体は何体もあったが、傷を負っている人は一人もいなかった。

「上出来だ。今回の受験者は優秀だな。みんな、試験結果の方は期待すると良い」

 実質の合格宣言をされ、受験者達は表情を明るくさせる。
 試験官は迎撃の様子を見ていなかったが、無傷で撃退したという結果は、チームワークが取れている何よりの証拠であった。

「では、街へ帰ろう」

 突発の討伐を終えて帰ろうとしたその時、試験官の腹部から剣が飛び出した。

「うぐっ……。お前は……何故っ……」

 試験官を後ろから刺していたのは、最初に殺したはずの、マフィアのボスであった。

「これはお返しだよ。ひゃひゃひゃ」

 剣を引き抜くと、試験官は地面へと倒れる。

 直後、凛がマフィアのボスへと飛び掛かった。
 振り下ろしたハンマーを、マフィアのボスは紙一重で避ける。

「うおっと」

 マフィアのボスが飛び退いて距離が空いたところで、凛が他の受験者達に言う。

「試験官の治療を!」

 その声でハッとしたガーネットとラピスが、慌てて倒れた試験官の下へと駆け寄る。


「見ていたぞ。あの中では、お前が一番能力が高いな」
「ふざけんじゃないわよ! 試験官が死んじゃったら、せっかくやった試験がパーじゃないの!」

 凛はマフィアのボスの足元の地面を凹ませるが、その瞬間に勘付かれて飛び退かれる。

「はっはっはっ、油断はしねーぞ」

 最初は油断して試験官にやられたマフィアのボスだが、その後は死んだふりをして、敵の実力を見計らっていた。
 腕が立つ上に、警戒心も強い厄介な相手であった。


 ハンマーでは速度が足りないと判断した凛は、ハンマーを模っていた土を組み替えて、双剣に切り替える。
 そしてすぐさまマフィアのボスへと飛び掛かった。

 マフィアのボスも迎え撃ち、二人は打ち合いを始める。

「む」

 双剣の連撃による手数の多さから、マフィアのボスは腕や足をどんどん斬り付けられて行く。
 そして、傷に意識を取られた隙を突き、凛はその片目を剣で貫いた。
 剣は脳にまで届くほど、深く突き刺さる。

 だが、マフィアのボスは平然とした顔で言う。

「お前、思っていた以上にヤベーな。ひひっ。ヤバ過ぎて、笑いが込み上げてくるぜ」

 マフィアのボスは刺された目を庇いもせず、剣を振り下ろした。
 凛は咄嗟に、首に刺した剣から手を放して、飛び退く。

 マフィアのボスが目に刺さった剣を抜いて捨てると、傷口から血が滝のように流れ出すが、全く物ともしない様子だった。
 目だけでなく、試験官が刺した胸の傷からも、夥しい量の血が流れ出ている。

「何で、そんな状態で生きてるのよ」
「ひっひっひっ、秘密だよ」

 目の傷も胸の傷も、明らかに致命傷であるのに、マフィアのボスは一切倒れる様子がなかった。
 残った片目が血走っており、手足が若干痙攣しているが、それだけである。

(再生系のアーティファクト? それともモンスター化の薬? どれもちょっと違うわ……)

 凛は心当たりのあるアイテムを思い返してみるが、どの効果とも当てはまらなかった。
 しかし、何かしらのアイテムの効果によるものだろうと考えたところで、一つ別の危険性に気付く。

「みんな、気を付けて! さっき倒して奴ら、まだ死んでない可能性があるわ!」

 凛が他の人達に警笛を鳴らすと、マフィアのボスが笑って答える。

「心配するな。あれは貴重な物だから、使ってるのは俺だけだ。ひひゃひゃ」

 マフィアのボスはアイテムによるものであることを自白した。

(何のアイテムか分からないけど、何にしても不死身になることはあり得ない。なら……)

 凛は飛び掛かり、凄まじい速度で連撃を行う。

「無駄だよ、無駄ぁー」

 マフィアのボスは一切効いていない様子だが、凛は構わずダメージを与えて行く。
 そうしているうちに、首が半分千切れ、内臓は飛び出し、人の形を保っていられるのが怪しくなってきた。


 喉が壊れて声も出さなくなっていたが、戦う手は止めず、狂ったように反撃を続けている。
 目の焦点は合っておらず、既に正気は失っていた。

「もう化け物じゃないの……」

 身体が崩壊しているのに死なないその姿に、凛は恐怖を抱いていた。
 周りで見ていた他の受験者達も、恐れ戦いている。

「こんなの生かしておいちゃいけないわ」

 凛は再度、マフィアのボスの足元を凹ませる。
 既に真面な意識がなかったマフィアのボスは、足を引っかけて、あっけなく地面に倒れた。

 すると、凛は即座に飛び退いて距離を開け、武器を再びハンマーに替える。
 それを振り上げると、一回り二回りと大きくなり、大きなハンマーとなった。
 そしてそのハンマーをマフィアのボスへと振り下ろす。

 ハンマーが地面とぶつかり、地響きが鳴る。
 凛はすぐにハンマーを持ち上げ、何度も打ち付けた。
 十分な回数を打ち付けてから退かせると、そこには血溜まりだけとなっていた。

「……死んだわよね?」

 凛は血溜まりの中に僅かに残っている潰れたミンチ肉を凝視する。
 もしかするとまだ動くかもしれないと考えていたが、動くことはなかった。


 決着が着いたところで、ラピスがヘルプを出す。

「凛さんっ、終わったなら手を貸してくださいっ。何とか命は繋いでますが、弱ってて私達だけじゃ……」
「オッケー、任せて」

 凛はハンマーを消して、治療に参加する。

 その後、凛の上級治癒魔法で試験官の人は無事回復し、みんなは街へと帰還した。



 ギルドに戻ると、すぐに全員に合格が渡され、受験者達はそれぞれ笑顔で解散した。
 凛達がギルドを出たところで、ガーネットが声を掛けてくる。

「貴方、本当に凄い人だったのね。悔しいけど、魔法使いとしても冒険者としても、今の貴方には勝てそうにないわ。でもね。いつか勝ってみせるから」

 ガーネットは一方的にそれだけ言って去って行った。

「認めてくれたってこと?」
「そうですね。ガーネちゃん素直じゃないから」

 凛達は微笑ましく去り行くガーネットの背を見送った。
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