死神になった日

いとま

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2日目

戦争

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「……になります。はい、お預かりしまーす」

 凛はカウンターで、買い物客への会計処理を行っていた。
 店を開店してから数日が経過し、少しずつだが、客足は増えてきている。

「貴方、接客丁寧ね。気分がいいわ」
「そうですか? ありがとうございますー」

 凛は普通に接客していただけだったが、こちらの世界がいい加減なのか、元居たところが厳し過ぎたのか、接客が非常に丁寧であると、評判が良かった。


 会計を済ませて店から出る女性客を、凛は気持ちよく笑顔で見送る。

「感謝してくれる人多くて、嬉しくなっちゃうわね。前の職場とは全然違うわ」

 この世界に来る前まで働いていた居酒屋では、理不尽なクレーマーやセクハラ客が日常茶飯事だった為、ここでの接客が天国のように思えていた。

 気分良くしていた凛が、ふと外に視線を向ける。

「おや?」

 店の外では、一人の少女がガラス越しにアクセサリーコーナーを眺めていた。
 少女は小柄で大人しそうな感じで、凛の好みド真ん中の容姿だった。

 その子に気付いた凛は、思わず立ち上がる。

「ついに食いついた!」

 カウンターから飛び出した凛は、ダッシュで店の外に出て、その女の子へと話しかける。

「うちのアクセサリーに興味あるの? 良かったら中に入って……あ、ちょっとっ」

 話しかけられた少女は、凛の言葉が終わらないうちに、一目散に逃げて行った。


 あっという間に逃げられてしまい、凛は肩を落として店内へと戻る。

「そんな勢いで行けば、逃げられるに決まってるのじゃ。主に追いかけられるのは、普通に恐怖じゃぞ」

 玖音は呆れたように指摘した。

「がっつき過ぎちゃったわね……。初めて餌に掛かった子だから、興奮しちゃったわ。反省」

 取り逃してしまった悔しさと無念を噛み締めながら、凛は軽率な行動だったと深く反省する。



 しかし、凛から逃げた少女は、アクセサリーには興味あるようで、その後もちょくちょく店の前に現れた。

 今日もやってきた少女を、凛はカウンターからチラ見する。
 少女が来るのは、もう何度目かであるが、声を掛けると、すぐに逃げてしまうので、凛は話しかけたくても話しかけられない歯痒い思いをしていた。

「けど、それも今日まで。とっておきの秘策で、今日こそはあの子にお近づきになってやるんだから」

 凛はただ指を咥えて見ているだけではなかった。
 少女と何とか交流できないかと、その子が来る度に、注意深く観察を続け、対策を考えていたのだ。

 そして考え着いたのが、物で釣ることであった。
 観察の結果、少女の視線から、大体の好みを把握できたので、興味を惹けるようなデザインのアクセサリーを用意して、それで会話に持ち込もうという算段だった。

 既にアクセサリーは用意してある。
 後は少女に仕掛けるだけであった。

「標的は商品に夢中、他の客はなし。絶好のチャンスね。さぁ、いざ行かん」

 凛は用意したアクセサリーの入った箱を持ち、意を決してカウンターから出た。
 直接外へは行かず、まずは店内からアクセサリーコーナーへ行く。

「新作入荷しましたー」

 そして外の女の子とは目を合わさず、陳列を始めた。
 その際、新作のアクセサリーの一部を、外からでも見えるようにしながら、ゆっくりと並べる。

 すると、外の女の子の視線が、そのアクセサリーへと向かう。
 そこでそれを、普通に並べるのではなく、女の子からぎりぎり見えない位置に陳列した。
 同じようにいくつか並べるが、全て見えそうで見えない位置にする。

 そして陳列を終えた凛は、一旦そこから離れてバックヤードへと引っ込んだ。


 そこから身を隠して様子を窺っていると、少しして扉が開いて、その少女が中へと入って来た。
 少女は新作が気になって仕方がないようで、周りを警戒することもなく、一直線にアクセサリーコーナーへと足を運んだ。

 そこで新作のアクセサリーを見始めたので、凛はその隙に忍び足で、その子へと近づく。
 扉を背にして、すぐには逃げられない位置に立ってから、声を掛けた。

「こんにちはー。うちの新作はいかがですかー? こんなのもありますよ」

 透かさず敢えて残しておいた新作アクセサリーのネックレスを見せて、興味を惹かせる。
 少女は驚いた顔をするが、やはり興味があるようで、逃げるよりも前にそのネックレスに視線を向けた。

「……可愛い」
「おまかわ」
「?」
「失礼。こちら一点物となっておりまして、御所望でしたら、早めに購入なさることをお勧めします。現在、突発特別セールで格安となっておりますので、買うなら今がチャンスでございますよ」

 女の子が逃げないように、凛は積極的にセールストークを行う。

 販売しているアクセサリーは非常に精巧な出来であるが、少女向けとのことで、どれも子供のお小遣いで買えるくらいに安い価格に設定されていた。
 この節句レスは餌である為、凛は更にそこから値下げして、タダも同然の価格にしている。

 だが、少女の顔は思わしくない。

「……欲しいけど買えない」
「あ、もしかして、お金持ってないの? んー、じゃあ、特別の特別で、お姉さんがプレゼントしちゃおうかな」

 凛はもう贈呈してしまおうとしようとしたところ、少女は首を横に振る。

「違う。お金はあるけど、つけれない。仕事してると、多分すぐに壊れるから」
「体力系の仕事? あー、激しい運動すると、チェーン千切れたりすることもあるかしら」

 少女の表情は変わらないが、凛には少し寂しそうに映った。

「でも、安心して。うちは魔道具専門店だから、保護機能を付与できるの。激しい運動をしても、取れたり壊れたりしないような、頑強な効果をつけてあげるわ」

 すると、少女は表情の変化は乏しいものの、薄っすらと目を輝かせる。

「どう?」

 改めて凛が尋ねると、少女は陳列してあるアクセサリーの方へと目を移して、その中からヘアピンを手に取った。

「これにつけて欲しい」

 それは控え目な花のワンポイントが付いたシンプルながらも可愛らしいヘアピンだった。

 注文を受けた凛は笑顔を見せる。

「分かったわ。がっちがちのをつけてあげる」

 凛はヘアピンを受け取り、奥の工房へと一旦引っ込む。
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