ペン先に神様 指先に心

いとま

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6章~エピローグまで

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6章~嫌いだった自分~

声の出ない息を吐き出して窓の外を見つめる。桜が散っている、もうそんな時期か。
僕は人間の心の動きも好きだが、四季の移り変わりも好きだ。その目に取り込んだ情報が何よりの世界を創る元素になる。でも嫌いなものが一つだけある。正確に言うと嫌いだったという過去だ。もちろん自分のことを。
あれは高校生ぐらいの頃、中学校時代に
たくさん親に迷惑と心配をかけてしまったから、いい子になろうとしたんだ。いい子って具体的になんだって話だが。手間がかからないように、何事もにもイエスマンになると
決めた。家事もするようになって、独り立ちをする準備を密かにしながら日常を過ごしていた。しかしいつしか本当の自分を忘れてしまった。どの顔が、どの心がホンモノなのかを判断する作業が必要になってしまった。想像するよりもずっと辛い作業で
毎回鏡に自分という人を問いただす時間が増える感覚だ。気が狂ってしまいそうだった。
【無理しなくていい】【そのままでいい】
【大丈夫】【お前ならきっと出来るさ】
そんなことを誰かに言って欲しかったんだ。
でも僕は強い人、なんでも出来る人
聞き分けのいい子、愛される子。
そんな役を「演じて」いたからこそ、
言ってくれる人なんて居なかった。
現状維持で大丈夫だよだなんて
責任逃れの言葉ばかり言われてしまう始末。
でもある日、それを言ってくれる人が現れた。それは紛れもない自分自身だった。
しかし言ったのは僕という外見の入れ物ではなく、中身の心だった。もちろん坐禅を組んで悟りを開いたわけでも無く、間接的に問いかけた。それが物語を紡ぐことだった。
空想の物語でも、その中に自分へ贈るメッセージや表現が隠れていた。物語は正直だったからこそ、僕自身が僕を助けていた。
馬鹿馬鹿しい話だが、本当のこと。
恥ずかしい話だが、そうやって自分を保って、自分という存在を探してきた。
周りの人からはよく「おかしい」「変わってる」と言われ、挙句の果てには「人生になんの必要があるの?」とまで言われていた。
思い出すだけで胃がキュゥとなる。いわゆるトラウマだ。しかしその言葉を負けそうになった時に、魂を削るための諸刃の剣として自分の喉元へ突きつける。前へ進むために。
そんなことを繰り返す日々の中で
嫌いだった自分が薄れていき、
いつしか自分の書く物語や自分のことが
好きになっていた。なんだやれば出来るじゃん。そう思って口角を上げる場面も増えてきた。1人でにやけて大変気持ちが悪いが、
悪い気は全くしなかった。恐らく今、風が吹いたのも一緒に笑ってくれたのだろう。
春風とは気まぐれだからどうかは分からないが。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
7章~物書きのモノサシ~

窓がカタカタと笑う。春の訪れを祝う為だろうか、それとも進捗乏しい僕を嘲笑っているのだろうか。春風は一緒に笑ってくれる
いい人だが、この窓は僕の事をいつも見てる
小姑みたいな存在だから、ほくそ笑んでるのであろう。たまには拭いてやるか。そうすれば少しぐらいは機嫌を直すだろう。気休め程度に、濡らしたちり紙でホコリの部分を拭き取る。逆に汚れてしまって、拭くことを途中で辞めた。こういうしょうもない事で気分を落ち込ませる。【物書き】というか
僕という存在はこういう時に、心を研ぎ澄ませる時間を作る。心が脆くなった時こそ絶好のチャンスになる。反撃の狼煙をあげる瞬間でもある。文字を書く人は寡黙で何処か不思議な雰囲気を醸(かも)し出しているようなイメージを持たれるかもしれない。一般の人とは違う雰囲気を。そして感情もほぼ出さずに過ごしていると思ってる人がいるかもしれないが、それは間違い。僕の持論だが、物書き。というより何かで表現をする人達は
感受性の塊だと思っている。だからこそ
喜びやすいし、傷つきやすい。笑うし泣く。
…ただ表現をする力の出し方をうまく
見つけられてないだけで、迷っている。
あまりしては行けないかもしれないが、自分の紡いだ物語に入り込んでしまうが故に
喜怒哀楽が忙しいのだ。僕が喫茶店でMacのパソコンカタカタ族の隣で執筆しない理由はこういうことだ。むしろブラックリストに入れられるレベルでやばい客になるだろう。
だから基本引きこもりでひたすら描き続ける。今描いている物も、誰かを死なせないと
成立しないから、嫌だけど息を引き取ってもらう。辛くてやはり泣いてしまう、この人の人生を終わらせてしまうことが何よりも申し訳ないしもっと生かしたかった。しかし神様はそれを許してくれず、ずっと物語の最期(おわり)まで進んでいく。心臓の1拍のように。僕自身が凄い訳では無い、言葉やその時に生まれる歴史の厚みが凄いからいつも書かせてもらっているんだ。そうやって
終わりまでの長さを測って、嬉しくとも悲しくともフィナーレを創り上げるために
指先の心を込めていく。それだけの事。
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8章~失敗~

天変地異。世界を揺るがす大事件。
どこかの国で起きていても
自分には関係ないと思える。しかし
自ら体験すると、その悲惨さを誰かに知って欲しいものなのだ。今、まさにそれが起きてしまった。神様の逆鱗に触れてしまい、世界が真っ黒に染まる。やらかした…。まだ余白が多いところに着いてくれたから良かったものの、
これがビッシリ描き詰めた言葉達の上に乗っかったことを想像すると、夜しか寝れなくなる。ここは笑うポイントだよ。途中まで書いていたところをトレースして、新しい世界へと描き写す。ちょっとした失敗、気にすることもないような良くあること。でも自分では泣きたくなるぐらいの
大事(おおごと)になってしまう。
そもそも失敗することは間違っているのか
と該当アンケートをした時に、多くの人は
間違っている。と答えるだろう。
はい。 いいえ。 どちらでもない。
の3択だったら、日本人は必ずどちらでもない。を選ぶことだろう。責任を負いたくないのが見えてしまっているから。でも何かを
創りあげる者の道筋で必ず出てくるのが
この失敗という試練なのだ。みんなは避けて通っていく道ではあるが、僕にとっては好都合な存在で、出来事となる。打ちのめされた先にある創作の未来、ボロボロになった時に掴める微かな光。そんなものを得られる時は決まって失敗をしていた時だったんだ。ドMと言われるかもしれないが、物語を紡ぐためならどんな姿にもなるし、ドMと言われたって悪い気はしない。魂がそのままであれば
形がどう変わろうと、ひとつの自分として
生まれていくだけの話。そうやって自然に過ごしていく。そうやって目を背けずに当たり前と仲良くなること、当たり前を超えること、自分自身が踏み出すこと、そんな短い人生を歩んでいるんだ。それに逆を考えれば
何かに挑戦した履歴が残っているということでもある。何かをしないと成功も失敗も生まれないし、現状維持のまま過ごすなんて僕からしたら有り得ない。なんでそんなつまらない生き方をするんだろうと素朴に疑問に思ってしまう。多分世間一般で発言すれば炎上案件なんだろうけど、それぐらい変わり者だと言うことで僕の中では落ち着かせている。
人と違う道を生きるからこそ難しい、だから誰にも分かって貰えないし独りになる。
それでもいい、物語と言葉達が居てくれれば
それだけで幸せだ。ちなみに神様のブロットが付いた世界は、後に切り分けてメモ帳として使う。これも失敗をした後に出来る僕なりの活かし方だ。悪いことを全てゴミ箱に捨てることはもう辞めた。そのままでもいいってことを自分自身で分かって行ったから。
神様の体も少し拭いてまた描き進めよう。
あともう少し。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
9章~職業病~

ぐーっと背伸びをして固まっていた体を
少しずつほぐす。こんなに体と目と指先を酷使するなら、貯めたお金で旅行やら娯楽施設に行けばいいのに、何故か気付いた時には
何かを描いている。そしてそれを独り立ちさせている。今日はもう書かんぞーーって思ってても、何かを感じとった時に落とし込んでやらないと、初めて使う寝具のように居心地が悪くなる。安心感はそういう所から摂取しているし、そのおかげで相変わらず疲労を蓄積させる。そんな苦労をしていると分からない読者からは理想を質問として聞いてくる。物書きというものは知性がある人がなれると思っている人が何人も居て、その度に何故か頭いいんですよね?って聞かれるが、答えはNOだ。こう見えても高卒で、文学のことは独学で学んだ人だから、日々勉強だし、日々進化しているのである。しかし正義を安売りする輩に見せつけてやりたいんだ。独自の感性とむちゃくちゃな文法で紡ぐ世界が世の中をひっくり返す瞬間を。今までの読者の好きを変えていく、本を読むことの敷居を下げたい、誰もが言葉に篭っている心を感じて欲しい。そう思う毎日、それが原動力。
常に僕はライターズハイなのだ。書いても書いても物足りない、寧ろ一人の物語が
生まれた瞬間の次には新しい子の手を引っ張って来てしまう。勿体ないというか、せっかく頭の中を歩いている言葉や気まぐれな発想を逃がしたくない。たとえ疲れてたとしても、体が限界でも、描いてしまう。この病気は神様が持てなくなったとしても、意地でも
描くだろう。口で咥えて曲がってよれていても、物語が出来上がればそれでいい。それしか僕には取り柄がないし、完治しない病気を
強みにしてしつこく野垂れ死ぬ未来へ向かう。いつまで経っても反撃者で居るつもりだ。
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10章~物語の生誕~

出来た。
最後に自分の名前を記して重なった世界を揃えて纏める。神様の頭をちり紙で少しだけ撫でて、抱きしめて感謝を伝える。
今日もいい人を描けた。この時間帯は
自分を褒めることが出来る唯一の時間。
他の人の作品より勝るという言い方はしたくないが、この時だけは僕の作品が最強だと強く思う。物語が生まれる時は、どんな難産でもその後の処置をしっかりすることを大切にしている。結局は僕が母体なわけで、僕のバイタルも一定を保たないといけない。そうじゃないと物語の産声を聞いたあとに愛でて上げれなくなってしまうから。母であり父である僕だからこそ、出来ることであり産後の処置をする必要がある。魂と個性が宿るこの物語達の1番嬉しいことは、誰かに読まれるその行動なのである。当然のことだが、中々出来ないこと。この世の中に様々な読み物がある中で選んでくれる奇跡、そして出逢えた偶然。陰ながらにその子たちが巣立っていく姿を僕は目に焼き付けて、よかったね。と
優しく微笑む。その後少しだけ泣く。
嬉しいんだ凄く。でもなんで泣いているかと言うと、自分のした事、描いた形は間違ってなんかなかったと教えてくれるからだ。
本当は君たちを生み出すだなんて、そんな大層なことは言えない。むしろ君たちが僕を生かすためにマス目の世界の中で育み、試練を超え、最後は立派に唯一無二となる。
僕は君たちが居てくれるから、物語を下手くそなりに紡いでいける。君たちが持つ
それぞれの意味を僕のフィルターを通して
外の世界へと送り出せる。
神様を宿したブロットで
ごく平凡な僕の指先から伝わる心で
僕の世界観をぶつける。
誰かが読む、笑う、泣く。
誰かが伝える、これいいよ!オススメ!
少しだけその子たちの名前が知られた時には
次、羽ばたく子達を作っていかなきゃならない。同じことの繰り返しだが、こうやって生きている。くだらない毎日かもしれないが
生きてることを感じれるのは、お腹がすいたり、喉が渇くことと一緒なぐらい
当たり前で、それが僕にとっては
執筆をしているときなんだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
エピローグ~星屑のような~

すっかり暗くなった夜道を歩く。
そういえばいつも夜中にしか
歩かなくなってきてしまった。
僕は吸血鬼か?こんなひ弱な吸血鬼は
すぐに封印か、成敗されてしまうだろう。
威張るのはやめよう。近くのコンビニで
買い物をする。書き終わったらビールやらツマミやら、甘いものを買うことを許す日になっている。ついさっきは言葉のおかげで
書かせてもらってるなんて言ったが
結局は自分にも負担があるわけで
少しだけ補給をする。今日だけの楽しみ。
買い物を終え、少し上を向いて歩く。
放射冷却現象のおかげで雲ひとつない
天井に綺麗な煌めきが
次々と目の中に飛び込んでくる。
ピタリと止まって、目を瞑る。
星屑が流れて擦れるような綺麗な音がしてくる。その中に僕もいるような気がしていた。
僕はちっぽけで、少しだけ自分らしく生きれているだけ。みんなと変わらないし、星屑のように特徴はほぼ無いと言って等しい。
みんな違うのは分かっているけど、自分が
飛び抜けて光り輝く恒星とは思わない。
でもちっぽけでありながらも、そこにちゃんと居れることが、何よりの財産で煌めき。
銀河を感じていると
耳に違う情報が入る。
クラクションを鳴らされた。さすがに
目を瞑ったまま道路の真ん中はダメか。
家に帰ろう。少しだけ打ち上げをして
明日からまた物語を紡ごう。

そう思って見えない神様を握って
心のブロットで星と星を紡いだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
~完~
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