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裏 あしながおじさまは元婚約者でした
毒兄妹の行方
しおりを挟む「お兄ちゃん、準備はできてる?」
『ああ、洋服を買ったから、あとは床屋に行かなきゃ』
――無駄なことしてんじゃないよ! どんなにオシャレしたって豚は豚のままなんだよ!
「髪なんかどうでもいいよ。それよりも雛子を捕まえるんだから少しでも体力をつけておかないと」
『うん、このまえケトルベルとバランスボールを買った。毎日筋トレしてるよ』
――馬鹿か! そんなのにお金かけてないでジョギングでもしろよ! 日の光を浴びろ!
「……そう、まあ頑張って。それよりも言っておいた道具は揃えたんでしょうね」
『それは……まだ』
電話の向こうで『そんなの本当に必要なのかよ』という声が聞こえて、麗良は心の中でチッと舌打ちする。
――本当にコイツ馬鹿だな。
雛子が借金のカタに意に沿わぬ結婚をさせられる……先日、兄の大地にそう言ってやったら、思った通り食いついてきた。
すぐにでも東京に来ようとするのを制して、『そのまえに準備をしたほうがいい』と、体力づくりと必要物品の購入を指示しておいたら変な筋トレグッズを揃えているらしい。
やはりバカはバカだな。必要なのは武器なんだよ!
雛子は害虫だ。
木の枝にたわわに実る美味しい実を食い尽くし、美しい緑の葉にも次々と穴を開けていく。
その木は元々麗良のものだった。
木の葉でのんびり横になりながら甘い果実を味わっていたら、横から害虫がやってきて、すべて食い尽くされてしまった。
おまけにそこに飛んできた美しい青い鳥さえも攫って行くなんて……。
――私の王子。青い鳥……朝哉様。
あんな意地汚い虫ケラに朝哉様を渡してなるものか。
阻止するためには、か弱い女1人では無理だ。
だから頭は馬鹿だけど馬鹿力だけはある大地を使うことにした。
アイツは唯一自分に優しくしてくれた雛子を女神のように崇めている。雛子のためならどんな無茶だってする。
あの日、目の前で両親を殴りつけて家を飛びだし、雛子の寮に忍びこんだように。
だから今度も煽ってやった。
大地に雛子を攫わせて、朝哉様から引き離す。
その間に自分が朝哉様の前に現れれば、彼はきっと目を覚ましてくれるはず。
本当の運命の人が誰であるのか気づき、笑顔で抱き締めてくれるだろう。
――もしも雛子が邪魔するようであれば……その顔に傷をつけて、一生人前に出られないようにしてやる。
大地と会話しながら、ポケットに忍ばせているカッターナイフに片手で触れる。
このカッターナイフはお店で万引きしたもので、いつどこで雛子に会ってもすぐに顔を切りつけてやれるようにいつも持ち歩いている御守りだ。
人を見下したようなあの顔がズタズタになるのを想像すると、性悪な店長に文句を言われても耐えられる。
それにこんな生活もあと少しだ。
朝哉様と結婚したら一生働かずに贅沢な暮らしができるのだから。
――そう、あと少し……婚約パーティーのその日になれば……。
「雛子は洗脳されてるから、お兄ちゃんを見たら逃げだすかもしれないよ。あの子を救うには多少の無茶も必要なの! それに周りの妨害もあるだろうから、備えは必要なんだって! ロープや武器が必要なの! 早く買っておいてよ!」
『……わかったよ。雛子ちゃんのためだもんな』
コイツが単純な男で良かった。
馬鹿な大地は、雛子の名前さえ出せば言いなりだ。
コロコロ内容が変わる、麗良のデタラメな説明を疑いもしない。
「そう、雛子のためなんだからね! それじゃ、また電話するから!」
――そう、頑張ってよね。雛子に身の程を知らせるために……。
「白石さん、いつまで休憩してるの! 早く仕事に戻って!」
――チッ、うるさいな! お前の顔もこれで切り刻んでやろうか!
ポケットに入っている黒くて硬い御守りに片手で触れながら、もうすぐ訪れるであろう本来の幸せな日常を思い浮かべてほくそ笑む。
店に出ると、すっかり親しくなった常連のクインパス社員を見つけた。笑顔を作って話しかける。
「あっ、いらっしゃ~い! 今日の朝哉様情報はどうですか~?」
彼女たちがお店に来るたびに話しかけていたら、麗良も専務ファン仲間と認識されて色々な情報をもらえるようになっていた。
「ああ、今日はビッグニュースがあるわよ! まえに話してた私の同期の広報の子がね、専務の婚約パーティーに出席できることになったの」
社内報の記事を書くために、取材班としてカメラマンと共に同行するのだという。
「へぇ~っ、羨ましい! もっと色んなお話を聞きたいなぁ~」
「よかったら今度その子も連れてきてあげるわよ。ナマ専務に会った時の印象とか聞けるわよ」
「いいんですかぁ~? 是非!」
――ふふっ、その専務の本当の婚約者が私だと知ったら、この女、ビックリするだろうな~。
その瞬間を思い浮かべると、歓喜でゾクゾクしてきた。
もうすぐ訪れるその日を待ちわびながら、麗良はもう一度ポケットの細長い塊にそっと手を触れるのだった。
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