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裏 あしながおじさまは元婚約者でした
クーリング・オフは任せろ! side朝哉
しおりを挟む「「「「カンパーイ!」」」」
ビアグラスを全員でカチンと鳴らすと、朝哉は雛子と視線を合わせて微笑んだ。
月曜日の仕事終わり。今日はつい先日も来たばかりの居酒屋に、チーム朝哉が勢揃いしている。
「ああっ、ヒナコの微笑みがトモヤのモノになってしまいマシタ~」
ヨーコが両手で顔を覆ってヨヨヨ……と泣き崩れると、雛子が席を立って、慌ててヨーコの隣に立つ。
肩を抱き、心配そうに顔をのぞきこんだ。
「ヨーコさん、朝哉と仲直りできたのはヨーコさんのおかげだと思ってるの。ありがとう」
「ヒナコ、ワタシに感謝してくれてるのデスカ? ワタシのことが好きデスカ?」
ヨーコが涙の一滴も出ていない顔を上げて雛子を見つめると、雛子は天使のような笑みで「もちろん」とうなずく。
「ヨーコさんはアメリカでもずっと私を見守ってくれていたんでしょう? 感謝してるし、私にとってはお姉さんみたいな存在よ。大好き」
「ヒナコ~! 大好きヨ!」
「ふふっ、私もヨーコさん、大好き」
はっしとキツく抱きあう女子2人を横目に、朝哉とタケは無言で目を見合わせて苦笑する。
――ヨーコめ、雛子が信用してるのをいいことに都合よく捏造しやがって。
一昨日の土曜日にめでたく愛を確認しあった朝哉と雛子は、翌朝まで寝る間も惜しんで何度も身体を繋げた。
さすがにその時は10個入りの避妊具1箱は使い切らなかったけれど、昼近くに起きて残り2個も見事に使い切ったことで、次回は2箱用意しようと朝哉は固く心に誓っている。
その後は買い物か映画にでも……と思ったのだけど、身体がつらそうな雛子に配慮して朝哉のマンションに連れ帰り、デリバリーのピザを食べながら、改めて今回の顛末について語り合ったのだった。
しかしその内容が……。
『ヨーコさんから聞いたわ。ニューヨークで私を見守るようヨーコさんに頼んでくれてたのね。朝哉が泣きながら土下座して頼んできたって言うから驚いちゃった』
『ヨーコさんが本当のことを私に話そうとするたびに朝哉が足元に縋って止めたんですって? そこまで想ってくれるのは嬉しいけれど、ヨーコさんが優しいからって困らせちゃダメよ』
『金曜日の夜は、オレはクズのバカタレだ。きっと許されない。もうダメだ! って号泣してたんでしょ? そんなに悩んでたなんて……』
金曜日の夜に雛子の夢を見たと思っていたが、どうやらあれは現実だったらしい。
実際に彼女は朝哉のマンションに入り、毛布を取りに行った寝室で額縁入りの手紙を発見していたのだ。
そしてその後、自分の部屋に帰った雛子はヨーコに電話して、すべてを聞いたのだという。
――しかもかなり捏造された話をな。
トドメはピザを持つ手を止めて唖然としている朝哉に雛子が告げた言葉だ。
『朝哉やヨーコさんが内緒にしていたのは、全部私のためだったんでしょ? 朝哉に頼まれて仕方がなかったって、ヨーコさんが泣きながら謝ってくれたの。そんなの怒るはずないのに。彼女は優しくて素敵な女性よね、憧れるわ』
そう言われた時には絶句した。
すべてがヨーコに都合のいいように微妙に改変されている。
そして朝哉にとっては屈辱的な内容のオンパレードだ。
――アイツ、なんで1人だけいい人になってるんだよ!
それでも彼女に協力を仰いだのは本当だし、結果的に上手くいったこともあって否定もできないというジレンマに、心の中で歯軋りをしたのだった。
そして今日はめでたく元さやに戻った2人を祝うために、平日にも関わらず、仕事をフルスピードで終わらせて居酒屋に来ている。もちろん言い出しっぺはヨーコだ。
「――まったくさ、俺はどんだけ泣き虫キャラになってるんだよ」
雛子がトイレに立ったのを見計らって朝哉が愚痴ると、ヨーコが目を吊り上げて反論する。
「こっちこそビックリですヨ! あれからイチャイチャしてると思っていたらヒナコから真剣な声で電話がかかってきて、もう度肝を引っこ抜かれましたヨ!」
雛子がいなくなった途端に、もう意味はないとばかりに泣き真似をやめてけろっとしているのが腹立たしい。
「タケから聞いたぞ。おまえ、酔った俺に泣き落としをさせればいいって言ってたらしいな。結局お前が泣き落とししてんじゃないかよ!」
途端にヨーコがキッと竹千代を睨みつける。
「タケの裏切り者! それでもサムライですか!」
「俺、侍じゃなくて運転手だし」
「ヒドイですぅ~! え~ん!」
「下手っくそな泣き真似だな。そんなのに引っかかるのはヒナだけだろ」
朝哉が素早く突っこむと、ヨーコも泣き真似を引っこめて、「ヒナはコロリと騙されすぎデスネ。マンガで言うところのチョロインですヨ」とうなずいた。
「そんな、すぐにヤレる女みたいに言うなよ」
「でも朝哉さん、雛子さんのあの、人をすぐに信じちゃうのってヤバイと思いますよ」
――たしかに……。
彼女は亡くなった父親と一緒で性善説の人間だから、人の悪意や嘘に鈍感なのだ。
優しすぎて押しに弱いし、言葉の裏を読むということをしない。
それが雛子の良さであり、危険なところでもあり……。
「まあ……絶対にインチキな壺とか買わされるタイプだよな」
朝哉の呟きに、ヨーコと竹千代が深く頷いた。
翌日も仕事があるので早々に解散し、朝哉は雛子と一緒にタクシーでマンションに帰ってきた。
エレベーターを25階で降りようとする彼女の手を掴んでキスをする。
「あっ、ちょっと……んっ」
29階に着くと手を引っ張って一緒にエレベーターから降りた。
戸惑う雛子をじっと見つめる。
「ヒナ、一緒に帰ろ」
「でも……」
「朝になったら着替えに帰ればいいし、同じ建物に住んでいて別々に寝るなんて耐えられない」
雛子はクスッと笑うと、「……フフッ、朝哉が泣いちゃいそうだから、今日のところは一緒に行ってあげようかな」そう言って手を繋いで歩きだす。
「ちょっと、俺はそんなに泣き虫じゃ……」
だけどヨーコの虚言により自分は泣き落とし名人にされているのだと思い出し、無駄な反論を諦めることにした。
――まあ、今のコレも泣き落とし効果みたいなもんか。
それでこうやって我が儘を聞いてくれるのなら、泣き虫扱いされるのもいいかもしれない。
2人で玄関に入りドアを閉めると、手を繋いだまま雛子の瞳をのぞきこんだ。
「ヒナ……ずっとそのままでいてくれよ」
「……えっ、なに?」
「大丈夫だ。おまえが高い壺とか買わされても、俺がクーリングオフしてやるからな」
「えっ、なに言ってるの? どういう意味?」
「ふっ……いいんだよ、ヒナはわからないままで」
「ヒナは俺が守るから……」そう言って目の前の尖った顎にそっと手を添える。
角度をつけて顔を近づけると、雛子は長い睫毛を伏せて自然にキスを受け入れた。
――うん、このままでいい。そのままの素直で優しいヒナでいいんだ……。
だってそんな雛子だから好きになったのだ。
彼女が素直で危ういぶん、自分がしっかり守ればいいのだと思う。
チュッと音をさせて離れると、オデコをコツンとくっつける。
「ヒナ、クーリングオフは任せておけ」
目をパッチリ開けて不思議そうにしている雛子にフッと微笑みかけると、右手で彼女の目蓋を閉じて、今度は深くて長いキスをした。
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