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裏 あしながおじさまは元婚約者でした
雛子からの手紙 side朝哉
しおりを挟む雛子と別れ、ニューヨークの大学に編入した朝哉の視点です。
ここで雛子から『あしなが雛の会』会長宛ての手紙がきて文章でのやりとりがあるのですが、内容は書籍版にあるため全文は掲載できません。
代わりにこちらでは朝哉に大まかな内容を語らせます。
*・゜゚・*:.。. .。.:*・**・*:.。..。.:*・*:. .。.:*・゜゚・*
「――ただいまお送りしましたPDFをご覧いただけましたでしょうか。そちらが校長経由で届きました雛子様からの手紙です。本物は本日付で郵送致しましたので、4日ほどでニューヨークに届くかと」
パソコン画面の向こうで秘書の赤城がメガネのフレームを指で押し上げながらそう告げた。
雛子から校長を通じて、『あしなが雛の会』会長宛てにお礼の手紙が届いた。
内容は奨学生に選んでもらえたことへの感謝の言葉だ。
どこかの例文をコピペして継ぎ接ぎしたようなお堅い文章。
その文面からは彼女の緊張がうかがえる。
まだ高校生の少女なんだ、会社宛てに手紙を書くなんて生まれて初めてだったのだろう。
一生懸命に言葉を考えている姿を思い浮かべ、朝哉は思わず頬を緩めた。
赤城からの報告は続く。
「学生寮の防犯システムは最新式のものを設置完了。玄関と窓、各階段付近のモニターに異常があればすぐに警備員が駆けつけます。所轄の警察にも学校と寮周囲の見廻りを強化するよう依頼しておきました」
「そうか。それで、ヒナは……」
「すでに彼女専用の特別室に移っていただいております。金銭的な心配がなくなり今までどおり高校に通えるということで、落ち着きを取り戻しつつあるようです。スクールカウンセラーの報告によりますと、今はちゃんと眠れるようになったと笑顔を見せていたと」
「わかった、ありがとう……」
FaceTimeを切ろうと思ったその時、待ったをかけるように赤城が慌てて付け加える。
「校長によりますと、雛子様は会の代表者に直接御礼を言いたがっているそうです」
「えっ、俺に!?」
「違います。朝哉様ではなく、『あしなが雛の会』の代表者です」
――くっ!
思わず苦い顔になる。
定治の社長時代から今も現役で個人秘書として仕えている赤城は恐ろしいほどの切れ者だ。
確か現在50歳くらいだと思うが、定治が会長になるまではクインパスの秘書課長も務めており、今も社内において絶大な影響力を持っている。
朝哉がまだ幼い頃から面倒を見てもらったりもしていたので、彼にはどうにも頭が上がらない。
向こうも朝哉を会長の孫、社長の息子として丁寧に接しながらも、こうして時折お世話係の顔をのぞかせ、慇懃無礼な態度をチラつかせてくる。
「雛の会の代表ってことは……つまり俺に手紙をくれて、俺に会いたがってるんだよな」
「違います。あくまでも『会の代表』です。あなた様個人は婚約を破棄した過去の男性です。くれぐれも自分が許されているなどと勘違いして、行動にお間違えのないよう」
――そんなこと言われなくたって……。
自分が嫌われているのはわかっている。だから連絡を取ることもなく、こうして遠くから間接的に見守るに留めているわけで……
定治が朝哉に預けてくれたのは軍資金の5千万円だけではない。
自分の懐刀である赤城をこうして貸してくれるのに加え、必要であれば定治の名前を使う許可まで与えてくれている。
逆に言えば赤城が朝哉の監視役であり、朝哉の動向はすべて定治に筒抜けだ……ということでもあるのだが。
「……ヒナの手紙に返事を書くのは……父…社長との契約違反になるのかな」
赤城は僭越ながら……と前置きしたうえで、
「会長であれば、『雛の会の代表が優秀な奨学生を激励するのは何もおかしくない』と仰ると思いますが」
ニヤリとしながら目を細めた。
さすが長く会長に仕えているだけあって、表情も口調もなんだか定治に似ている。
「そうか……そう言ってもらえると救われる」
時宗との約束は、雛子と完全に別れることだった。専務になるまで雛子への一切の接触を禁じられているし、もちろん自分の本心を告げることもできない。
――だからせめて、他人としてでも……。
優しい言葉をかけてあげたい。守ってあげたい。どんな形でもいい、細い糸でもいいからどうにか繋がっていたい。
「ヒナに……いや、雛の会の代表として、白石雛子に返事を書く。彼女に渡してくれるか?」
「アメリカからの国際郵便だと急いでも4日はかかります。メールのほうが気軽にやりとりできるかと」
――気軽に……だって!?
「いいのか?……気軽に……やり取りしても」
「会の代表が奨学生を励ますだけですから」
「うん……赤城……、ありがとう」
思わず声が震えていた。
「雛子様との連絡専用のメールアドレスを取得して高校の校長に伝えておきましょう。会長に報告しなければならないので、これにて失礼致します」
さすが優秀な秘書だ。朝哉の顔がみっともなく歪むところを見てはならないと思ったのだろう。
赤城が素早く会話を打ち切り画面から消えた。
その直後、朝哉の目から涙がこぼれ落ちる。
「ふ……ヒナと……繋がっていられる……」
憎むべき相手である朝哉ではなく、民間非営利団体の代表としてならいくらでも優しい言葉をかけることが許される。
それがあるならニューヨークでも孤独な闘いに耐えられる。目標に向けて頑張れる。
朝哉は手の甲でグイッと涙を拭うと改めて雛子からの手紙を読み返す。
そこには見本のような美しい文字で、学業を頑張る旨がしたためられていた。
――ヒナがこんなに頑張ってるんだ。俺が泣き言を言ってちゃいけないよな。
「うん、頑張ろう!」
1日も早く雛子を迎えに行くために、まずは目の前のやるべきことをこなしていくのみ。
――そのために俺は、あの日、自分に誓ったのだから。
朝哉は自分の心を殺したあの日の出来事を思い浮かべた。
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