婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

田沢みん

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裏 あしながおじさまは元婚約者でした

叔父の陰謀 3

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「ねえ、あなた。どっちの宝石いしがいいかしら? 迷っちゃうわね。両方買っちゃってもいい?」
「ああ、好きにしろ」

「ねえパパ、パーティー用に新しいドレスを買ってもいい?」
「ああ、好きにしろ」

 大介は妻子の言葉にうわの空で、同じ返事を繰り返す。

 百貨店の営業が御用聞きに来るたびにこの騒ぎ。だけど『好きにしろ』という台詞を呪文のように唱えてさえおけば、この2人は上機嫌でいてくれる。だったら何度でも唱えてやるさ。

「ああ、好きにしろ。金はいくらでもあるんだから」

 百貨店のカタログを手にはしゃいでいる妻と娘を横目に、大介は8人掛けのダイニングテーブル でパソコンを開いて株の銘柄選びをしていた。

――ここなら一発逆転できそうかな。

 大損を一気に取り返そうと思ったら大穴狙いしかない。一発逆転にリスクはつきものなんだ。


『俺は上流社会への切符を手に入れた。“我が世の春“とはまさしく今のような状態を言うに違いない』

 ……大介がそんなふうに優雅な生活を享受きょうじゅしていられたのは、最初の2ヶ月程だけだった。

 雛子の未成年後見人となった大介は、会社の顧問弁護士を買収した結果、偽の遺言書で遺産の多くを我がものとした。
 あげく、何も知らない雛子に相続放棄の書類にサインさせ、すべてを手中に収めることに成功したのだ。

 表向きには大介が雛子のお金を管理していることになっているし、雛子本人も自分がどんな書類にサインしてお金の動きがどうなっているのかを把握していない。

 だから学校に授業料を支払い、雛子には月に10万円の小遣いを振りこんでやるだけで文句も言わない。
 そこから寮費や食費を引き落とされれば、手元には3万円ほどしか残らないのに……だ。
 

 最初はまず、自分が遣いこんでいた白石工業のお金を補填ほてんしようと思っていた。
 けれど自由になるお金を一度に手にすると、あっという間にタガが外れてしまう。

 海外FX詐欺に引っ掛かったのが始まりだった。

 損した分を白石メディカの金でどうにかしようと思ったのに、そちらは経理がしっかりしていてCEOと言えども簡単に流用できそうにない。
 仕方がない、雛子から奪い取った金でどうにかしよう。

 損を取り戻そうと先物さきもの買いで大儲けを狙い、新進企業の株に手を出したのも失敗だった。

 失った分は取り戻せばいいんだ、大丈夫、どうにかなる。
 そんなふうに損を取り返すために際どい投資を繰り返しているうちに負の連鎖に陥っていることに、大介は気づいていない。

 大介が我が物顔でどんどん減らしている宗介の遺産が、本来なら雛子の物であったはずなのだ……ということにも……だ。



「ねえパパ、雛子ちゃんは帰ってこないの? 僕は雛子ちゃんがほしい。あの子と結婚させてくれるなら、僕は会社に顔を出してもいいよ」

 ある日、長男の大地がそんなことを言いだした。

 大介が白石メディカのCEOに就任してからは、白石工業には大地を名ばかりの社長に据えてあった。
 しかし、いくら名ばかりとはいえ月に何度かは顔を出す必要がある。
 それを拒んでいた息子が、雛子と一緒になれるなら社長としての務めを果たすと言っているのだ。

――そうか、大地が雛子と結婚したら雛子の資産は大地のもの。俺たちが遣いこんだお金も後で返せと言われることがない。

 それは名案だとほくそ笑んでいると、

「ねえパパ、だったら私が朝哉さんと婚約したい。今は白石メディカのCEOはパパなんだもの。その娘の私のほうが朝哉さんには相応しいでしょ」

「まあ、素敵! そうなったら我が家は黒瀬家と姻戚関係になるってわけでしょ? ねえ、あなた、早速あちらに打診してちょうだい。白石の娘であればどちらでも構わないはずよ」

 妻と娘もはしゃぎだす。

――なるほど、そうなれば八方うまく収まるな。

 俺はやっぱりツイている。

 結婚するには相手の同意も必要なのだということを考えもせず、降って湧いたようなアイデアに小躍りする大介なのだった。
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