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フランス旅行のお話なのデス (1)
しおりを挟む「ワオ! フランス……デスカ?」
「そう、フランス。行ってみたくない?」
クインパスニューヨーク営業所のカフェテリア。1時間のランチタイムに、ヨーコと朝哉は長テーブルで向かい合って座っていた。
いつもランチは営業先の近くで食べてくるか、移動中の車内でコーヒーとハンバーガーで済ませている朝哉がわざわざお昼に戻って来て『奢ってやる』と言い出した。
何事かと思ったら、フランス旅行をプレゼントしてくれると言う。飛行機のチケットもホテル代も移動のタクシー代も、全部、ぜ~んぶ朝哉持ち。素晴らしい!
「行きマス!行きたいデス!……ですがどうしたのデスカ? まさか私に惚れちゃいマシタカ? 返事はゴメンナサイですヨ。トモヤに恋愛感情は無いですからネ」
「そんなもん俺だって無いわ! 俺はヒナ一筋だってぇの!」
「それなら良いデスけどね。浮気は絶対に駄目デスヨ」
「するかっ!」
ーーだとしたら、ドウシテ?
チロリと不審な目を向けると、朝哉が気まずそうに斜め上に視線を逸らして首の後ろを掻く。
「その旅行にさ……ヒナを誘って欲しいんだ」
「ヒナをデスカ?……ピコン!分かりました!エッフェル塔で可愛いヒナの写真を撮って来て欲しいのデスネ! お安いの御用なのデスヨ」
「違う、そうじゃなくて……。いや、もちろん写真は欲しいけどさ……」
「ハッキリしないデスネ。ケツの穴の小さい男はモテませんヨ!」
「おいっ、ここでそんな汚い言葉を使うなって!」
クインパスは日本の企業なので、ニューヨーク営業所にも日本語が理解出来る社員が何名かいる。
だけど『ケツの穴が小さい男』というのは日本のことわざなのだから使ってもいいのではないだろうか。
ことわざでも『ケツ』が入っているとアウトなのか。『お尻』と言い換えれば大丈夫なのだろうか。日本語は奥深すぎて難しい。
……というような事を語ったら、
「いや、ケツもお尻も女性が大声で連呼しないだろ。そもそもそれって『ことわざ』じゃなくて『慣用句』だし」と言われた。
日本語は本当に難しい。『慣用句』についてはまた雛子に教えてもらうとしよう。
そう言ってサンドイッチをパクついたら、凄く羨ましげにジト目で見られた。
羨ましいのはサンドイッチではなく雛子の事だろう。
分かっている。目の前にいる優秀な時期クインパスCEOは、雛子のこととなると手段を選ばないストーカーに変身するのだ。
「……フランスにヒナコを連れて行ってどうするのデスカ?」
「うん……実はさ、俺が言う場所にヒナを連れて来て欲しくて……」
「Oh! 私は犯罪行為はしたくないデスヨ。拉致監禁のうえ凌辱はBL界ではサラッと行われていますケド、実際にやったらドン引きですからネ。ヒナコはノーマルプレイ派に決まってマス!」
「バカっ、お前また、そんな言葉を大声で……」
慌ててキョロキョロと周囲を見渡してから、声を潜めて身を乗り出した。
「今度フランスで行われる企業展示会に日本からクインパスが参加する事になってさ、社長命令で俺も手伝いに行く事になったんだ」
その会場に雛子を連れて来て欲しいのだと言う。
なるほど、会場をうろつく姿を観察したいのか。立派な変態だな。
「危険な橋は渡りたくないデスヨ。ヒナコにバレたら私が嫌われマス」
「……この前本屋で一瞬だけヒナを見ちゃっただろ? アレで余計に恋しくなっちゃってさ……圧倒的なヒナ不足なんだ。俺は裏方だし、ブースの陰から見守るだけだから」
「デモ……」
朝哉がスーツのポケットに手を突っ込むと、何かを取り出しテーブルにコトッ……と置いた。
「ワオ!チ◯ルチョコ! 」
手を出したところでパッと取り上げられる。
「お前、チ◯ルチョコが大好きだったよな。知ってるか? これは期間限定の杏仁豆腐味だ」
「アンニン?……何ですか、ソレ」
「中華料理の……アレだ、『Almond Jelly』、お前よくデザートにオーダーして食べてただろ」
「Oh!アーモンドジェリー!さすがチ◯ル、チャレンジャーですネ。素晴らしいデス!欲しいデス!」
「これは俺の兄が送ってくれた荷物にたまたま入っていた3個しか無い。だが俺の頼みを聞いてくれると言うのなら、チ◯ルの各種詰め合わせを20個……いや、30個送ってもらうよう頼むことが可能だ」
「ヒナコを連れて行きマス!!!」
即答したら、朝哉はニヤリと微笑んで、手の中のチ◯ルをポトリと手のひらに落として来た。
「契約成立だな」
ーーヒナコ、ゴメンなさい! だけどコレはトモヤとの友情のために仕方ないのデス! 決してチ◯ルに釣られた訳では無いのですヨ!
朝哉とフランス旅行の打ち合わせをしながら、ヨーコは送ってもらうチ◯ルは何味がいいかと脳内で考えていたのだった。
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