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116、計画始動

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「楓花、この本は全部この棚に並べればいいのか?」
「あっ、それは対象年齢別に分けたいから私がやる。天馬はそっちのオモチャの分別をしてくれる? 入れ物に名前が書いてあるから。パペットはそこのカゴで、ミニカーはそっちの箱」
「分かった」

「楓花ちゃん、俺は?」
「えっと……それじゃ辻先生は私と一緒に本の整理をしてくれますか? 私が言う通りに並べてくれればいいので」
「オッケー!」

「駄目だ、辻は俺と交代。お前がオモチャの整理をしろ。楓花、本は俺が手伝うから」
「うっわ、独占欲強っ!」
「黙れ」

 12月最初の土曜日。
 この日は楓花たち託児室のメンバーが勢揃いして、『託児ルーム』の準備に取り掛かっていた。


 楓花の提案がきっかけで始まった託児室の規模拡大計画は、院長や事務長の承認も得て夏から本格的にスタートを切った。

『託児室』は『託児所』に名称変更して、来年4月からは入院患者さんの子供も対象とする事にした。
 隣にドア続きの『託児ルーム』を併設して、そこでは外来患者さんの子供の一時預かりを開始する。

 将来的には夜勤スタッフの子供も預かれるよう24時間体制に移行して行くのが理想だけど、今回の動きはその前段階。
 今後いくつかの段階を経て最終目標まで持って行くつもりだ。

 隣の会議室を他の場所に移して託児ルームに改築した。2つの部屋の間にあった給湯室も新しくして、今週中には電子レンジと大きな冷蔵庫が搬入される。
 来年1月には駐車場の奥を区切って園庭にし、滑り台やブランコなどいくつかの遊具が置かれることになっている。これで天気の良い日には外遊びも出来るようになる。
 
「ふふっ……」

 絵本を年齢別に分けて天馬に手渡しながら、不意に楓花が笑みを漏らした。

「ん?どうした」
「楽しいな……って思って」

「準備が?」
「準備もだけど、これからのこと全部。4月からの新体制が楽しみだな……とか、新しく来る子はどんな子かな……とか、考えるだけでワクワクしちゃう」

「そうか……それは良かった」
「天馬……ありがとうね」

 楓花の手が止まり、本を並べている天馬の横顔をジッと見つめる。
 それに気付いて天馬も手を止め楓花を見た。

「私、天馬に誘ってもらわなければ保育士の仕事を諦めていた。こんな風に仕事のことをあれこれ考えて笑ってなんかいなかったと思う」
「……そうか」

 天馬が目を細めて頷く。

「それにね、天馬はお医者様で私とは違う世界だって感じてたから、仕事について語り合える日が来るなんて思ってもみなかったの」
「それは俺もだよ。まさか同じ病院で働けるなんてな」

「それだって、天馬が託児室を設立してくれたからでしょ? 全ては天馬のお陰で動き出したんだよ。もう感謝しか無いよ」

 入院したあの日に天馬と再会してから、楓花の世界は目まぐるしく変化した。
 諦めていた恋が動き出したばかりじゃなく、両想いになって、保育士に戻って、将来の約束までして……。
 今は愛する人と同じ方向を向いて進める喜びをひしひしと感じている。

「まあ、やっぱり保育士はお前の天職だったって事だよ」
「うん……今度はどんな事があっても逃げないで、一生続けていきたいって思ってる」
「そうか……それじゃ俺は、そんなお前を一生支え続けるよ」


「ちょっとあなた達、2人の世界に浸るのは勝手ですが、手も動かして下さいよ!」

 見つめ合っている2人にマキ先生の喝が飛んだ。

「あっ、すいません!」
「ハハハッ」
「ちょっと天馬、笑ってないで!」

「マジで2人はラブラブっすね。とっとと結婚しちゃえばいいのに」
「ああ、近いうちにするよ」

「えっ、結婚?!」
「なんだよ、しないの?」

「それは……いずれ……しますけど」
「くっそ、また敬語かよ。可愛いな」

「だからお2人さんってば!」

「「 はいっ! 」」

 他のみんなも笑い出し、その場が笑顔で溢れた。
 辻と言い合いをしながら豪快に笑っている天馬の横顔を見つめながら、楓花は改めて幸せを噛み締めていた。
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