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110、婚約指輪 (2)
しおりを挟むーー次の段階?
「私が頑張る……って…?」
首を傾げる楓花に、天馬は先日実家で茂や宗馬に話した内容を語って聞かせた。
「実は、『託児室』を『託児所』にして一般の利用者も募ろうかと思っている」
「あら、一般って事は普通の託児所にするっていうこと?私も利用したいって思ったら大輝を預けられるの?」
天馬は茜に向かって「そうだ」と顎を引く。
「この2年間で託児施設のノウハウは大体習得出来たし、スタッフもスムーズに動けるようになった。ここで規模拡大を図って『福利厚生施設』から『事業』へと舵を切る」
ーー凄い……。
天馬は目先の利益に惑わされることなく、大局で物事を捉えてるんだ。そして1つの成功で満足することなく、更なる飛躍のための行動を起こす。
そのための変化を厭わない。
「……流石だね。天馬は経営者に向いてるのかも」
椿があれほど天馬に執着したのも分かる気がする。単に見かけがいいとか頭がいいとかだけでなく、『経営のセンス』、『人を動かす能力』があるんだ。
だけど天馬はムッとして「経営者?……嫌だね」と即答した。
「俺はメスを握って目の前の患者を治すことに集中したいんだ。あそこが託児所になったらその時点で経営は事務長にでも譲るよ」
「えっ、天馬がボスじゃなくなっちゃうの?!」
楓花が思わず声に出したその途端に、天馬の表情が意地悪いものに変わり、楓花にズズッと顔を近づける。
「なんだよ楓花、一緒に住んでるだけじゃ足りなくて、職場でも一緒がいいの? 欲張りだな。俺の顔が見たいならたまには覗きに行ってやるよ」
「も……もうっ!」
「うわっ、嫌だ! 」
突然大河が立ち上がって皆の視線が集中した。
「親友と妹のイチャイチャなんか見たくねぇ~よ! 茜、やっぱり俺は耐えられない! 2人の邪魔をしてもいいか?」
「アホかっ! いいわけないだろっ!妹の幸せを喜べない兄って、あんた最低だね」
頭をバシッと叩かれて、更に『最低だね』が追い討ちになって大河が涙目になったところで、天馬が椅子に置いたジャケットを手に取りながらハハッと笑う。
「大河、悪いけど楓花は俺が貰うよ」
上着のポケットに手を入れて、濃紺の小さなケースを取り出す。
楓花の足元で片膝をつくと、ケースをパカッと開けて両手で掲げる。
ーーえっ、これって……。
濃紺のケースの真ん中に鎮座しているダイヤのリング。
これはどう見たって……。
「楓花さん、俺の一生かけて、全力で愛し抜きます。どうか俺と結婚して下さい。まずはフィアンセと呼ばせて欲しい」
「おいおい、デカいダイヤだなぁ、何カラットだよ!」
「ちょっとコレって、セレブ御用達のアレじゃないの!天馬、奮発したわねぇ! 楓花ちゃん、ほら、返事しなきゃ!」
突然の事に言葉を失っていたら、茜に声を掛けられハッと我に帰る。
「天馬……ありがとう。嬉しい……」
「指輪を嵌めてもいい? 左手を出してくれるか?」
優しい声音で言われてコクコクと頷いた。黙って左手を差し出すと、その薬指に1カラットのダイヤのリングがゆっくりと嵌められる。
『光り輝く愛』を意味する名前がつけられたそのリングは、ニューヨークの高級ブランドの品だ。
「……これでもう、楓花をフィアンセって呼んでもいいんだよな?」
「……はい、よろしくお願いします」
はらりと涙が溢れ、左手の甲に落ちた。
だけどこれは喜びの涙。止める必要なんてない。
「楓花ちゃん、おめでとう!」
「2人ともよかったわねぇ~」
「楓花ちゃん、俺も嬉しいよ。本当に良かったな」
茜や八重、新之助も目を潤ませながら祝福の言葉を述べていく。
そして皆の注目が大河に集まる。
大河は立ったまま両手をグッと握って俯いていたけれど、覚悟を決めたようにバッと顔を上げて、笑顔を見せた。
「楓花……それと天馬、おめでとう! 俺は兄として、親友として、2人を心から祝福するよ! 本当におめでとう!これからもよろしくなっ!」
途端にワッと場が沸きかえり、茜がグラスにビールを注いで乾杯となる。
「楓花ちゃん、天馬、本当におめでとう!かんぱーい!」
「「「 かんぱーい! 」」」
ビールをグッと飲み干して、大河が天馬を指差した。
「おい天馬、これからは俺がお前の兄貴だ。これからは『大河お義兄様』って呼ぶんだぞ。俺の方が目上なんだから、ちゃんと敬うように。ほれ、『お義兄さま、よろしくお願いします』って言ってみ」
楓花の涙がスンと引っ込んだ。
「こら大河! 調子に乗るんじゃない!」
「大河、楓花ちゃんの兄としてシャンとしなさい!」
「お兄ちゃん、最低! お兄ちゃんのせいで天馬に捨てられる! 本当に最低!」
「大河……お前は……今度こそ丸坊主になりたいのかっ!」
ガッ!
「痛てぇ~~っ!」
茜に脛を思い切り蹴られ大河がうずくまっている間に、他の皆で改めて乾杯が行なわれ、楓花は喜びを噛みしめたのだった。
ーー私は今日から……天馬のフィアンセ。
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