【R-18】キスからはじまるエトセトラ【完結】

田沢みん

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110、婚約指輪 (2)

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ーー次の段階?

「私が頑張る……って…?」

 首を傾げる楓花に、天馬は先日実家で茂や宗馬に話した内容を語って聞かせた。

「実は、『託児室』を『託児所』にして一般の利用者も募ろうかと思っている」

「あら、一般って事は普通の託児所にするっていうこと?私も利用したいって思ったら大輝を預けられるの?」

 天馬は茜に向かって「そうだ」と顎を引く。

「この2年間で託児施設のノウハウは大体習得出来たし、スタッフもスムーズに動けるようになった。ここで規模拡大を図って『福利厚生施設』から『事業』へと舵を切る」

ーー凄い……。

 天馬は目先の利益に惑わされることなく、大局で物事を捉えてるんだ。そして1つの成功で満足することなく、更なる飛躍のための行動を起こす。
 そのための変化をいとわない。

「……流石だね。天馬は経営者に向いてるのかも」

 椿があれほど天馬に執着したのも分かる気がする。単に見かけがいいとか頭がいいとかだけでなく、『経営のセンス』、『人を動かす能力』があるんだ。

 だけど天馬はムッとして「経営者?……嫌だね」と即答した。

「俺はメスを握って目の前の患者を治すことに集中したいんだ。あそこが託児所になったらその時点で経営は事務長にでも譲るよ」

「えっ、天馬がボスじゃなくなっちゃうの?!」

 楓花が思わず声に出したその途端に、天馬の表情が意地悪いものに変わり、楓花にズズッと顔を近づける。

「なんだよ楓花、一緒に住んでるだけじゃ足りなくて、職場でも一緒がいいの? 欲張りだな。俺の顔が見たいならたまには覗きに行ってやるよ」
「も……もうっ!」


「うわっ、嫌だ! 」

 突然大河が立ち上がって皆の視線が集中した。

「親友と妹のイチャイチャなんか見たくねぇ~よ! 茜、やっぱり俺は耐えられない! 2人の邪魔をしてもいいか?」

「アホかっ! いいわけないだろっ!妹の幸せを喜べない兄って、あんた最低だね」

 頭をバシッと叩かれて、更に『最低だね』が追い討ちになって大河が涙目になったところで、天馬が椅子に置いたジャケットを手に取りながらハハッと笑う。

「大河、悪いけど楓花は俺が貰うよ」

 上着のポケットに手を入れて、濃紺の小さなケースを取り出す。

 楓花の足元で片膝をつくと、ケースをパカッと開けて両手で掲げる。

ーーえっ、これって……。

 濃紺のケースの真ん中に鎮座しているダイヤのリング。
 これはどう見たって……。

「楓花さん、俺の一生かけて、全力で愛し抜きます。どうか俺と結婚して下さい。まずはフィアンセと呼ばせて欲しい」


「おいおい、デカいダイヤだなぁ、何カラットだよ!」
「ちょっとコレって、セレブ御用達のアレじゃないの!天馬、奮発したわねぇ! 楓花ちゃん、ほら、返事しなきゃ!」

 突然の事に言葉を失っていたら、茜に声を掛けられハッと我に帰る。

「天馬……ありがとう。嬉しい……」
「指輪を嵌めてもいい? 左手を出してくれるか?」

 優しい声音で言われてコクコクと頷いた。黙って左手を差し出すと、その薬指に1カラットのダイヤのリングがゆっくりと嵌められる。
『光り輝く愛』を意味する名前がつけられたそのリングは、ニューヨークの高級ブランドの品だ。

「……これでもう、楓花をフィアンセって呼んでもいいんだよな?」
「……はい、よろしくお願いします」

 はらりと涙が溢れ、左手の甲に落ちた。
 だけどこれは喜びの涙。止める必要なんてない。


「楓花ちゃん、おめでとう!」
「2人ともよかったわねぇ~」
「楓花ちゃん、俺も嬉しいよ。本当に良かったな」

 茜や八重、新之助も目を潤ませながら祝福の言葉を述べていく。
 そして皆の注目が大河に集まる。

 大河は立ったまま両手をグッと握って俯いていたけれど、覚悟を決めたようにバッと顔を上げて、笑顔を見せた。

「楓花……それと天馬、おめでとう! 俺は兄として、親友として、2人を心から祝福するよ! 本当におめでとう!これからもよろしくなっ!」

 途端にワッと場が沸きかえり、茜がグラスにビールを注いで乾杯となる。

「楓花ちゃん、天馬、本当におめでとう!かんぱーい!」

「「「 かんぱーい! 」」」

 ビールをグッと飲み干して、大河が天馬を指差した。

「おい天馬、これからは俺がお前の兄貴だ。これからは『大河お義兄にい様』って呼ぶんだぞ。俺の方が目上なんだから、ちゃんと敬うように。ほれ、『お義兄さま、よろしくお願いします』って言ってみ」

 楓花の涙がスンと引っ込んだ。

「こら大河! 調子に乗るんじゃない!」
「大河、楓花ちゃんの兄としてシャンとしなさい!」
「お兄ちゃん、最低! お兄ちゃんのせいで天馬に捨てられる! 本当に最低!」

「大河……お前は……今度こそ丸坊主になりたいのかっ!」

 ガッ!

「痛てぇ~~っ!」

 茜にすねを思い切り蹴られ大河がうずくまっている間に、他の皆で改めて乾杯が行なわれ、楓花は喜びを噛みしめたのだった。

ーー私は今日から……天馬のフィアンセ。
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